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山口製作所、プレス加工にこだわり金型の内製化から冷間鍛造を活用した工法転換を拡大【効率化編】

自作の社内システムで受注から生産計画までを自動化

DIGITAL X 編集部
2020年3月9日

QRコードがキーボードレスの鍵

 製品検査や出荷検収の工程も自動化を図っている。検査工程では、測定のためのプログラム生成ソフトを導入し、自動測定器で測った値をサーバーに自動で転送できるようにした。

 たとえば製造した金型はCNC三次元測定機で自動測定し、寸法を計測データとして管理する。手書きやPCへの入力作業と比べ、作業量は4分の1に減っている。今後はノギス、ピンゲージなどマニュアルで使う測定器の使用は廃止する考えだ。「手間や時間がかかるだけでなく、間違いが起きやすい」(山口社長)からだ。

 一方、出荷時の検収作業では、QRコードを使いワンタッチで検収できるようにした。スーパーでの検品作業をイメージして開発した仕組みで、生産管理システムから出荷リストを出力し、それとロット票に印字したQRコードを付き合わせて確認する。以前は、「人海戦術だったため、年に2~3回の検収ミスが発生し、顧客からのクレームにつながっていた」(山口社長)という。

 このQRコードが同社のキーボードレスの鍵である。現場スタッフは1人が1台のタブレット端末を持っており、出勤すると個人IDをQRコードで読み取って認証。作業に取りかかる際は、使用する金型のQRコードを読み取った後に、受注・生産管理システムから受注データを呼び出し、「誰が、どの製品を、どの機械で製造するか」を指定する。そこから作業開始ボタンを押せば進捗が管理される。

 管理者は、作業者1人ひとりの作業状況をデータで確認でき、現場の改善ポイントを見つけるために利用する。金型を置いてある場所や、製造した製品の置き場所などもQRコードを使って把握する。

 このタブレット端末は、工作機械の稼働状況を可視化するためのシステム(KMC製)のものだ。同システムと自社開発した受注・生産管理システムを接続することで、受注案件ごとに各工程の流れを一気通貫に管理できるようにしている。各種データを受注・生産管理システムに紐づけることで「製造物のトレーサビリティ向上にも役立っている」と山口社長は話す。

投資効率が最も高いのはIT、システム化で脱Excelを図る

 山口製作所が、ここまでシステムによる自動化に取り組む背景には、「効率化に向けた取り組みにおいて投資効率が最も高いのはITだ」(山口社長)との考えがある。

 たとえば、生産計画の作成では、これまでExcelで作業していた作業をシステム化することで「数人分の人手を削減できている」(山口社長)。彼らは、その時間分、製造に携われることになる。「その作業量に相当する製造能力を持つ工作機械は何千万円もの費用が必要だ。それがPCなら10万~20万円で十分なスペックの製品を購入でき、間接作業を格段に効率化できる」(同)というわけだ。

 ただITの投資効率が高いとっても「零細企業は、本当に効果が出せるものしか投資できない。その意味では生産設備は1000万円であっても生産能力が分かるので投資しやすい。しかしITシステムは効果が事前に測れないため1000万円の投資は非常に難しい」(山口社長)という側面もある。

 だからこそ同社は、システムの内製化にこだわる。「効果を得るために、まずは社内で試行錯誤する。そのほうがわがままも効く」(山口社長)からだ。どうしても外部のベンダーなどに依頼しなければ実現できない場合のみ外部に依頼するという。

 こうした山口社長の方針を社員はどう受け止めているのだろうか。現在は、導入中のロボットのためのAI(人工知能)プログラムを開発している廣井 奈緒子 氏は、「私が入社したころは社内でPC教室を開催していた時代だ。当時と比べ仕事の仕方は大きく変わったという実感がある。社長からは常に『数字で説明しろ』と言われている。難しい部分もあるが、何事も数字に置き換えて考える癖をつけようとしている」と話す。

 同じくロボット開発に携わる嶋 優仁 氏も「社長が生産管理システムなどを自社開発すると聞いたときは全くイメージが沸かなかった。しかし、実際にシステムができ使ってみると、非常に便利だと感じている。従来の間接作業が全くなくなり、違う作業ができるようになった。上手く進まない作業も、数字に置き換えて考えるとスムーズに作業できることが増えている。従来の作業方法では、もっと作業時間がかかってしまうだろう」と語る(写真2)。

写真2:山口製作所のデジタル化を支える廣井 奈緒子 氏と嶋 優仁 氏

 そんな山口製作所にあって現在の業務システムの課題は、受注データの電子化である。1カ月に750~1000件ある受注案件のうち「約60%がFAX、約35%がメール、その他5%が電話などによる依頼」(山口社長)だからだ。これらがすべて電子化されれば、受注・生産管理システムへの入力は自動化でき、さらに効率を高められる。ただ顧客の都合もあり、なかなか進展は難しい。こうした部分での「政府による電子化への取り組みなどに期待するところが大きい」(同)とする。

 山口製作所では今後も、電子化やシステム開発により業務効率の向上を図る。「ルーチンワークを極力自動化し手作業を極力なくすことで、人が持つ付加価値を新たな仕組みづくりに振り分けていく。たとえば、切削加工でなければ作れなかった部品をプレス加工でも製造できる新工法が開発できれば、顧客にも当社にもメリットが出てくる。そうした新工法の開発に人員を割きたい」と山口社長は力を込める。

 次回【高付加価値化編】では、山口製作所における“ものづくり”現場におけるデジタル化について紹介する。