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山口製作所、プレス加工にこだわり金型の内製化から冷間鍛造を活用した工法転換を拡大【高付加価値化編】

プレス加工の精度をデジタル化し品質を可視化

DIGITAL X 編集部
2020年3月11日

AGVによる材料や金型の自動搬送を視野に

 さらに次のテーマとして、AGV(無人搬送車)による材料や金型の自動搬送などを視野に入れる。「運搬の無駄、特に材料や金型といった重量物の運搬は、運搬機器を使って時間をかけて運ばなければならない作業だ。そこにAGVを活用し無人で移動させる仕組みをイメージしている」(山口社長)という。

 限られた工場スペースにあって、プレス加工における段取り替えなどでは相応の作業スペースが必要になる。そのため、良く利用する材料や金型、仕掛品などは工場内に置くことになり、活用スペースが不足しているのが実態だ。作業現場に置いていた材料や金型はすべて倉庫に移動させ、AGVを使って夜間や早朝などスタッフがいないうちに搬入・搬出することで作業と作業空間の効率化を高めたい考えである。

 従来、生産計画は製造部門が表計算ソフトのExcelを使って個別に立てていた。材料発注も手作業のため、そこがボトルネックにもなっていた。現行システムでは計画が自動で作成できるため「生産計画の作成に関わっている人員はゼロ」(山口社長)である。

ロボットやAI活用も基本は自社開発

 これらロボットやAI活用に置いても、社内システム同様に、山口製作所では自社開発を基本にしている。現在は、「専任ではないもののITに軸足を置いた担当者を3人程度置き、開発に当たっている」(山口社長)。開発のアイデア自体は山口社長が出すケースが多いものの、「そのテーマに取り組めそうな社員に声をかけ取り組ませることが各人の能力アップにつながっている」(同)という。

 開発担当者だけでなく、全社員へのIT教育にも力を入れている。「システム化を進めると、全社員が基本的な操作をこなせなければならない。PCを操作できず誰かに代わってもらうと、そこで間違いが発生しやすくなるからだ。社内でPC教室を開くなどで基本知識は必ず身に着けてもらい、たとえ時間がかかっても担当者自身がデータを入力することを徹底している」(山口社長)。

 山口製作所で現在、ロボット導入や、そのためのAI開発に取り組むのは、嶋 優仁 氏と廣井 奈緒子 氏の2人。2人を選んだ理由を山口社長は「普段の作業への取り組み姿勢を見て、ITの仕組みに興味を持ち、取り組んでいけそうな雰囲気を持っていると感じたから」と説明する。

 嶋氏は、プレス加工の段取り作業を担当しながらロボット活用に向けた勉強を開始した。ロボットメーカーのファナックが開く学校に通い、ロボット活用に向けた知見を蓄積してきた。嶋氏は「当初は、メモを書く程度で感覚的に取り組んでいたが、上手くいかないことが多かった。今は、寸法など数値的な項目をしっかりと整理し準備することで、無駄な変更がなくなってきたと実感している。設計やデザインなどを初めに考えるところが大切だ」と話す。

 廣井氏は組み立て作業の担当だったが、CAD/CAMをスムーズに操作できたことから、測定プログラムの作成に携わるようになり、今は、画像認識のためのプログラミングを担当している。廣井氏は、「私自身はITやIoTのことは良く分からない。だが、ロボット化や自動化を進める中で、作業の効率化や不良品の発生数が減ることが実感でき、良いことだと思っている」と話す。

 間接業務の自動化やロボット導入などに取り組む山口製作所。だが山口社長は、「まだまだ人手によるルーチンワークが多く残っている。そうした部分の自動化・ロボット化を進めたい」と手綱を緩めない。

 将来的には「これまで組み立て作業や検査作業しかしたことがない社員でも、プログラムを開発したりルーチンワークを解決する仕組みを検討したりできるようにしたい」(山口社長)ともいう。そのように社員のスキルをシフトしていかなければ「ロボット化したので、あなたの仕事はないということになってしまう」(同)からだ。

「考える癖」」を身に付け全社員で付加価値を高める

 山口製作所が掲げる人材育成テーマには「考える癖」である。当然のことながら、さまざまな作業の自動化を進めれば、人間は現場での作業をする必要がなくなってくる。山口社長は「だからこそ人間は創造力を高め、会社の問題点を発見し、解決手段を考えなければならない」と力説する。

 人間が考え、ゆったりと仕事ができるためにも「極力、自動化を進め、ルーチンワークには人手をかけないのが理想」と山口社長は話す。そこでのIoTやITは効率化を図る手段の1つでしかない。本質的には「加工技術を向上させることが重要だ。新しい加工技術をもって『こんな新しい“ものづくり”ができますよ』と顧客に提案できるかどうかが差別化点になる」と山口社長は考える(写真5)。

写真2:新しい加工技術を生み出す山口製作所の現場

 将来の山口製作所においては「デジタルとアナログの融合が当社の強みになっていく」と山口社長は見る。デジタル活用は間違いなく進む。そのなかで、アナログな部分を大切にしていきたい。同社にとってアナログの部分とは、「人間の五感を最大限に活用しなければならない、世の中に例がないこと、どうすれば上手くいくか分からない部分」(山口社長)である。工法転換は、その最たるものだ。

 そのためにも「社員全員が新しいアイデアを考え、社内の平均点を上げることで会社の付加価値を高めていく」(山口社長)考えだ。そうなれば、値決めなどでも当社が主導権を握れるようになる。ただし売上高よりも収益を狙う。山口社長は「あまり分母を大きくする必要性は感じない。クリエイティブな町工場として収益を高めるために何ができるかを常に考えている」と話す。