- Column
- 欧州発の都市OS「FIWARE」の姿
EUの経済発展と競争力強化の必要性から生まれたFIWARE【第1回】
FIWAREは次世代インターネットのサービス基盤
さて日本の再興戦略である「Society 5.0」(超スマート社会)は、2016年1月に閣議決定された「第5期科学技術基本計画」に基づく取り組みです。EUも科学分野の研究開発への財政的支援制度として「欧州研究開発フレームワーク計画(the Framework Programme for Research and Technological Development、略称FP)を設けています。
2007年から始まった第7次計画(FP7)におけるICTプロジェクトに「次世代インターネット官民連携プログラム(正式名:the Future Internet Public-Private Partnership(FI-PPP))があります。FI-PPPは、2011年からの5カ年計画で、総額3億ユーロ(約390億円)の予算で遂行されました。そしてFI-PPPの多数のプロジェクトの中の一つに「FI-WAREプロジェクト」があります。
FI-WAREプロジェクトの目標は、EU経済のグローバル競争力の向上と、その核となる次世代インターネットの多岐にわたる分野で活用できる基盤の開発です。この基盤が本連載のテーマであるFIWAREです。
FI-PPPプロジェクトの取り組みは、表1に示すように、多岐に渡りました。これらの活動を展開することでFIWAREの普及拡大を目指しました。
プロジェクト名 | 概要 |
---|---|
FIWARE Lab | FIWAREの開発者が利用できるクラウド環境の提供 |
FIWARE Accelerate | FIWAREを普及促進させるために、FIWAREを活⽤したアプリケーションを開発したい中⼩企業やスタートアップ等に対する資⾦援助 |
FIWARE Mundus | FIWAREの世界での普及促進 |
FIWARE iHubs | FIWARE活用コミュニティの立ち上げ支援 |
こう説明すると「FIWAREはスマートシティのための専用基盤ソフトウェアではないのか」と思われている方もいるかと思います。ですが、実際は、そうではありません。FI-PPPでは、表2に挙げた8つのカテゴリセクターでFIWAREの実証実験に取り組みながら、スタートアップの育成や、社会・公共分野のアプリケーションを開発し、EU圏の産業の活性化を図ろうとしたのです。
プロジェクト名 | カテゴリ | 実施場所 |
---|---|---|
FINEST | 物流 | 蘭アムステルダム、トルコ・イスタンブールなど3カ所 |
OUTSMART | スマートシティ | 独ベルリン、英バーミンガム、スペイン・サンタンデールなど5カ所 |
Instant Mobilty | 交通・輸送 | 伊ローマ、仏ニース、スペイン・トレドなど6カ所 |
Smart Agrifood | 農業 | ギリシャ・アテネ、スペイン・マドリッド、独カイザースラウテルンなど8カ所 |
SAFECITY | 街の安全 | スウェーデン・ストックホルム、ルーマニア・ブカレスト、フィンランド・ヘルシンキなど6カ所 |
ENVIROFI | 環境 | オーストリア・ウィーン、アイルランド・ダブリン、ノルウェー・オスロなど8カ所 |
FI-CONTENT | メディア・コンテンツ | 仏マルヌラヴァレ、英ロンドン、独デュッセルドルフなど6カ所 |
FINESENY | エネルギー | 仏グルノーブル、フィンランド・ヘルシンキ、スウェーデン・ストックホルムなど10カ所 |
その意味でFIWAREは“スマートシティ専用”ではなく、「スマートソリューションの開発を加速する」ために開発された、精選されたOSSコンポーネントからなる次世代情報プラットフォームなのです。
FI-WAREプロジェクトは2011年5月から2014年12月まで続き、2014年9月からは「FI-COREプロジェクト」に引き継がれ、2016年12月まで続きました。その後、FIWAREを継続して強化・普及を推進するために非営利団体:「FIWARE Foundation e.V.」(以下、FF)が2016年に設立されました。
FFには2019年12月時点で、民間企業や研究機関、個人を合わせて300を超えるメンバーが加入しています。さらにFFのコミュニティには1000以上のスタートアップが参加しています。