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  • 欧州発の都市OS「FIWARE」の姿

EUの経済発展と競争力強化の必要性から生まれたFIWARE【第1回】

村田 仁(NEC PSネットワーク事業推進本部マネージャー)
2020年1月22日

スマートシティが求める機能とFIWAREの思想が合致

 FIWAREはスマートシティ専用ではないと説明しました。それではなぜ、スマートシティのための都市OSとして期待されるのでしょうか。FIWAREとスマートシティの親和性の高さを理解するためには、スマートシティの発展の歴史に目を向ける必要があります。

 スマートシティ政策は、1990年代後半に地球環境問題が取り上げられ、2000年代から進められてきました。当時は、CO2削減と、それに寄与するエネルギーマネジメントがスマートシティにおけるテーマの主体でした。

 2000年代後半になると、並行して議論されていた交通政策などを統合する形でスマートシティを運営する動きが出てきます。代表例が官民共同出資で2009年に設立された「アムステルダム・スマートシティ(ASC)」です。、Accentureのアムステルダム事務所、アムステルダム市役所などが参画しています。

 ASCの主な設立目的はCO2排出の削減ですが、同時に「市の経済成長」「住民・利用者の意識・行動の変化と住民の生活の質の向上」の実現を掲げています。環境によい施策でも「つまらない街になるような取り組みでは駄目」ということでしょうか。

 ASCでは5つのテーマに対して3つの活動の柱を立ててスマート化を推進しています(表3)。温室効果ガス削減を単独の施策として取り組むのではなく、複数施策の“合わせ技”で実現しようと明確に提示した試みです。

表3:ASCの5つのテーマと3つを活動の柱
5つのテーマ生活スマートメーターを使った省電力検討と生活の継続
仕事通勤交通渋滞の緩和、スマートビルディングによる省電力と働きやすさの実現
交通スマートパーキング、船舶ほか交通手段の電力化・人力化
公共施設地区全体の省電力化、太陽光の利用、LED設置、ごみの圧縮
オープンデータ見える化による市民意識喚起
3つの活動の柱プラットフォーム関係者や企業を1つの場に集める
テストプロジェクト地域でモデル事業を進め、公開する
オープンイノベーションデータを公開し、広く検証機会を得る

 そのためASCは、ステークホルダーが集まる場となる“プラットフォーム”を用意し、さまざまな意見を取り入れながら、そこで出たアイデアを迅速にテストしてみる。その結果を公開し、さらに広く意見を募るという手法は、現代のスマートシティ構築のお手本になっていると言えるでしょう。

 そうしたスマートシティ構築の考え方は、都市に情報共有や連携、アジャイル開発といった機能を求めます。そこに、FIWAREの「データの容易な横断利用の実現」「オープンソースでの提供」「オープンなAPIの採用」「すぐに利用できるアプリケーションモジュール群の提供」といった思想が重なります。

 その近しさから、スマートシティにおけるFIWAREの利用例が多くなっていると推察されます。事実、FIWAREは世界26カ国140都市以上で採用されています。その背景には、FFが、2015年設立の「Open and Agile Smart Cities initiative(OASC)」などの都市ネットワークと連携していることもあります。OSCAは、スマートシティ開発の業界標準を都市間や都市内へ展開することを目的にする非営利団体です。

 次回からは、FIWAREの技術的な内容に触れていきます。

村田 仁(むらた・ひとし)

NEC PSネットワーク事業推進本部マネージャー