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  • IoTのラストワンマイルを担うLPWAの基礎知識

リテール業にみるLPWAの現場把握力【第3回】

中村 周(菱洋エレクトロ ビジネスデベロップメント部 部長)
2020年4月6日

前回は。LPWA(Low Power Wide Area)との親和性が特に高い業務としてFA(ファクトリーオートメーション)における既設のセンサーデータの活用を紹介した。今回は、コンビニエンスストアやスーパーなどリテール(小売り)業の店舗におけるセンサー活用を題材に、LPWAの適用現場の広がりを紹介する。

 残念ながら延期になったものの東京オリンピックに向けて食品製造業は、衛生面で、ますます厳しい管理が求められている。それに伴い、食品衛生管理規格「HACCP(ハサップ)」導入の義務化がリテール(小売り)業界でも進んでいる。

センサーやゲートウェイの数は必要最小限が原則

 なかでも、第1回でも触れた業務用冷蔵庫や保冷車、冷蔵冷凍物流倉庫などの温度管理に向けたIoT(Internet of Things:モノのインターネット)の採用が熱い。業務用冷蔵庫や「ショーケース」と呼ばれるドアがないタイプの冷蔵庫に、LPWA(Low Power Wide Area)の無線機能を持つ冷蔵庫用温度センサーの設置例が出てきている(写真1)。

写真1:冷蔵庫への無線機能を持つ温度センサーの設置例

 リテール業における冷蔵庫の数は一般に、小規模のコンビニエンスストアで1店舗当たり20台近く、大規模スーパーでは100台以上になる。これだけの冷蔵庫を持つ小売業者が、HACCPに準拠するために今も人海戦術で販売員やスタッフが店中を歩きながら冷蔵庫の温度計を時間ごとにチェックしメモを取っている。

 「1時間に1回、100個の冷蔵庫の温度をメモする」という行為が、人手不足の、このご時世に経営者のストレスにならないわけがない。

 そこで最近は、(1)冷蔵庫の温度を温度センサーで計測、(2)無線通信で100個のセンサーがデータを送信、(3)ゲートウェイで受信、(4)温度データを自動で帳票管理という自動化ニーズが高まっている。このニーズに応えるための無線環境には、いくつかの条件がある。

 まず設置が楽であることと導入コストが安いことだ。電気工事が伴ったり搬入に手間がかかったりする仕組みは極力避けたい。

 次に低周波数帯域で、通信範囲が広範囲であること。Wi-FiやBLE(Bluetooth Low Energy)では、とそもそも通信距離が足りない。Wi-Fiが使っている2.4GHzの周波数帯域は店舗内では、来客者が持つ無数のスマートフォンやタブレットのほか、自動ドアや電子レンジでも利用されており、とても混み合っている。ノイズだらけの帯域では通信品質の劣化もみられる。

 リピーター(中継器)などを使わずに、より遠くまで電波が届く必要もある。実際、大きなスーパーでは、フロアの端から端まで電波が届かないことや、冷蔵庫の内側にセンサーを設置してもドアを閉めたらデータが外に届かないなどの理由からリピーターの設置を求められるケースがあるが、その設置には電源工事や接続試験が発生する。センサーは冷蔵庫の台数分、ゲートウェイは1店舗に1台など最小限の設置で済ませたい。

 また、キャリア系のLPWA(LTE-Mなど)を温度センサーに採用すると、温度センサーの1つひとつにSIMカードを装着しなければならなくなる。その場合、冷蔵庫が100台あれば、センサー100個のすべてが通信会社への月々の課金対象になってしまう。コストが跳ね上がり、こうした用途では敬遠される。