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Well-beingを実現する量的拡張と質的拡張【第12回】

安藤 健(パナソニック マニュファクチャリングイノベーション本部 ロボティクス推進室 総括)
2021年5月10日

前回は、ロボティクスの新しい取り組みとして「自己拡張」という価値提供の重要性が今後増していくことを指摘した。自己拡張は、「やりたいことをやる」「なりたい自分になる」といった“幸福度(Well-being)”を高めるために、ヒトの能力を拡張したり、内に秘めたものも引き出したりする取り組みだ。従来のロボティクスの中心的な提供価値は生産性向上だった。今回は、幸福度と拡張技術の関係をより詳しく考えてみる。

 最近、「Well-being」という言葉を聞く機会が増えた。2021年3月には日本経済新聞社と公益財団法人Wellbeing for Planet Earthが、GDP(Gross Domestic Product)に代わる新しい指標として「GDW(Gross Domestic Well-being)」の研究を大手日系企業と共同で始めると発表している。

身体的・精神的・社会的に良好な状態を目指すWell-being

 Well-beingという考え方の始まりは、「心身の健康、健康から得られる幸せ」を意味する16世紀のイタリア語「benessere(ベネッセレ)」のようだ。英語を直訳すると、「Well=良い」と「being=状態」ということから「良い状態であること」を意味する。「幸福」と訳されることもある。

 国際的には、Well-beingは次のように定義されることが増えている。

 「身体的・精神的・社会的に良好な状態」

 これは、1946年に署名された世界保健機関(WHO)憲章の前文において次のように表現されたことによるものだ。

 「Health is a state of complete physical, mental and social well-being and not merely the absence of disease or infirmity.(健康とは、病気ではないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあることをいう)」

 ここで大事なのは、健康や幸福とは、決して身体的に良好な状態だけを指すわけではなく、精神的、社会的に良い状態になっている必要があるということだ(図1)。

図1:Well-beingの定義による関連領域

 Well-beingを定量化したり分解したりする取り組みも多数、実施されている。例えば、アメリカの世論調査大手Gallupは、「Well-being度」について140を超える国や地域で調査している。

 Gallupの調査内容は、「ポジティブ体験(よく眠れた/敬意を持って接された/笑った/学び/興味/歓び)と「ネガティブ体験(体の痛み/心配/悲しい/ストレス/怒り)」の有無や、人生に対する自己評価を10段階で聞くもの。同社はWell-beingには「Career、Social、Financial、Physical、Community」の5つの要素があるとも分析している。

 ほかにも、ポジティブ心理学の専門家であるマーティン・セリグマン氏による「PERMA理論(Positive emotion、Engagement、Relationship、Meaning、Accomplishment)」はWell-beingと密接な関係があるとされる。日本では、安藤 英由樹 氏、渡邊 淳司 氏、ドミニク・チェン氏らが“日本らしいWell-being”について議論を深めている。

 学術的には色々と違いが存在しているものの、大きく捉えるとWell-beingとは「身体的・精神的・社会的に良好な状態」と考えて全く問題ないだろう。逆に「ill-being(幸福が損なわれている状態)」とは、「身体的、精神的、社会的な要素のいずれかが良好ではない状態になってしまっている」と考えられる。