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3D都市モデルをビジネス活用する「ミラーワールド」が始動【第6回】
メタバースへの活用余地
さらなる発展的な活用余地の1つが、バーチャルな土地・空間を現実世界同様に取引できるようする不動産的価値の提供といえる。既に仮想空間の土地を売買する事例が複数登場している。例えばモンスターを育成して対戦するゲーム「アクシーインフィニティ」では、ゲーム内の土地が1億6000万円で落札された事例もある。
仮想空間での土地の売買機能は、ブロックチェーン技術を用いた「NFT(Non Fungible Token)」を使って実装されており、デジタルコンテンツである土地の唯一性・真贋を保証している。デジタルコンテンツの作成年月日、識別番号といったメタデータを明示・公開し、ブロックチェーン技術を使って保護することで、鑑定書や所有証明書といったリアルの土地に近い概念での保有を可能にしている。
つまりデジタルデータであるバーチャル3D空間上の土地が“価値”を有することになる。その価値の源泉は、現実世界同様に、取引されている土地の区画数が少ないという「希少性」や、ゲーム内でのアイテム獲得が優位になる「経済性」である。
仮想空間における土地の売買に特化した「SuperWorld」というプラットフォームも登場している(図2)。地球上のすべての土地を仮想空間に再現し、それを100メートル×100メートルの640億区画に分割し売買する。2021年6月には、仮想空間上でエッフェル塔を一望できる広場の土地が1億9000万円で取引され、2021年11月時点では30億円弱にて販売されている。
各区画の所有者は、広告掲出やデコレーション、アート展示などコンテンツを自由にパーソナライズできる。SuperWorldの仮想空間は様々な人が専用アプリケーションを使って閲覧可能になっており、例えば広告コンテンツが閲覧されれば、収益が所有者に配分される。
これらの例をみれば、仮想空間における不動産的価値の源泉は、ミラーワールド普及や活用を見込んだ「経済性」、リアルな土地と同様の「希少性」と「象徴性」の3つで構成されると考えられる。
ソフトウェアインフラの充実がデジタル時代の都市の発展を支える
前回、今回と見てきたように、市民の行動/サービスのデジタル化が進展している中で、都市空間そのもののデジタル化も漸進している。今後は、ミラーワールドなどを介した双方向性や、より優れた顧客体験が求められる中で、都市自体が新たな価値を提供することが必要になる。
そこでのスマートシティといったまちづくりは、デベロッパーやゼネコンなどのプレーヤーに加え、デジタルサービサーや先進技術ホルダーなどミラーワールドを形作る様々な事業者の参画が進み、提供価値も多様化していく。
これまで都市インフラの発展とはハードウェアインフラの充実を意味していた。今後は、都市空間においてもミラーワールドなどデジタルの領域もが新たな都市のインフラになっていく。米Teslaがソフトウェア更新により車両性能をアップデートすることで自動車の価値提供のあり方を変えたように、ソフトウェアが都市の機能をアップデートしていくようになるだろう。
藤井 篤之(ふじい・しげゆき)
アクセンチュア ビジネス コンサルティング本部 ストラテジーグループ マネジング・ディレクター。名古屋大学大学院多元数理科学研究科博士後期課程単位満了退学後、2007年アクセンチュア入社。スマートシティ、農林水産業、ヘルスケアの領域を専門とし、官庁・自治体など公共セクターから民間企業の戦略策定実績多数。共著に『デジタル×地方が牽引する 2030年日本の針路』(日経BP、2020年)がある。
増田 暁仁(ますだ・あきひと)
アクセンチュア ビジネス コンサルティング本部 テクノロジーストラテジー&アドバイザリーグループ テクノロジー戦略プラクティス マネジャー。立命館大学文学部人文学科地理学専攻卒業後、2014年アクセンチュア入社。先進技術を中心とした新規事業戦略立案、スマートシティ戦略策定実績多数。国土交通省の「Project PLATEAU」には担当マネジャーとして参画。