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空飛ぶクルマとVRで変わる近未来のモビリティ【第12回】

藤井 篤之、矢野 裕真、中野 浩太郎(アクセンチュア ビジネス コンサルティング本部)
2022年5月25日

自動車産業をはじめとするモビリティ領域は、デジタル技術と工学技術の進化により「100年に一度」と言われる大変革期を迎えている。だが、それも単なる序章に過ぎない。スマートシティへの取り組みが進む10~20年後には、今とは全く異なるモビリティの世界が実現されるだろう。今回は、大変革の予兆とも言える実用化が見込まれる最先端モビリティについて解説する。

 モビリティを支える基幹産業の1つである自動車産業では近年、内燃機(エンジン)から電動機(モーター)への転換が急速に進んでいる。地球温暖化対策・脱炭素社会の実現に向けた世界各国の規制に対応するためだ。2030年には電動車(EV)の販売台数がガソリン車/ディーゼル車を上回るという予測もある(矢野経済研究所調べ)。

電動技術で身近になる“空の移動”

 こうした動きに伴ってバッテリーやモーターなど電動技術の開発競争が活発になっている。その恩恵を受けるのは自動車だけではない。ドローン(UAV:無人航空機)に代表されるeVTOL(電動垂直型離着陸機)も電動技術の高度化の恩恵を受ける。eVTOLの研究開発には、既存の自動車産業・航空機産業からベンチャー企業までが続々と名乗りを上げている。

 スマートシティ分野で真っ先に思い浮かぶのがドローンの物流サービスへの活用だろう。世界中で実証実験が実施されている。日本でも日本郵便やヤマト運輸、佐川急便といった物流事業者を中心に実証実験が行われている。郵便局間の配送や、配送ロボットと連携した個人宅へのラストワンマイルの配達などだ。楽天がゴルフ場で展開する配送サービス「そら楽」など商用化も始まっている。

 今後の実用化に向けては、自律飛行の安全性検証、飛行経路の空域設定、法整備などの課題もある。しかし、物流量の増加に伴う配送ドライバーなどの要員不足や、都市部における道路渋滞といった問題を解消するためにも、早期の実用化が求められている。

 eVTOLを人の移動手段(乗用)に活用できないか、という期待も高まっている。いわゆる“空飛ぶ自動車”や“空飛ぶタクシー”への応用だ。例えばスズキと技術協定を結ぶ日本のeVTOLメーカーであるSkyDriveは、大阪府・大阪市と連携し、2025年の大阪・関西万博開催時における「エアタクシーサービス」の事業展開を予定している。ANAホールディングスもトヨタ自動車が出資する米ジョビー・アビエーションと提携し、関西国際空港から大阪市内へのeVTOL運航事業を開始する計画だ。

 このほか東京大学発のスタートアップ企業であるテトラ・アビエーションは米国でeVTOLのテスト飛行を実施しており、2022年内の実用化を目指している。本田技研工業は、ガスタービンと電動技術を取り入れて航続距離を伸ばすハイブリッドeVTOLの開発を表明している。

 乗用eVTOLの実用化に向けた研究開発は、日本ほどには公共交通機関が発達していない米国や中国、中東諸国で積極的に進められている。例えばアクセンチュアの試算では、米国のニューヨーク・ウォール街からワシントンDCへ移動がeVTOLなら2時間弱で移動できるようになる(図1)。飛行機や高速鉄道を利用している現状は4時間超がかかっている。

図1:移動手段による所要時間の変化。図はニューヨーク・ウォール街からワシントンDCまで320kmを対象にしたアクセンチュアの試算の例

 日本でもIR(統合型リゾート)の都市内移動、空港のない地方都市への都市間移動での導入が期待されている。会津若松のスマートシティにおいてアクセンチュアは、全国の水辺を活用した地方から地方への飛行艇交通網実現について検討している。会津若松最寄りの発着場候補である猪苗代湖から市内へのeVTOLについても議論している。

 空飛ぶクルマによる移動サービスなどの実現には、上下移動も想定した航路を算出するため3D(3次元)空間の地図の発展も不可欠だ。すでに国土交通省などを中心に取り組みが進んでいる(第4回第6回参照)。