• Column
  • スマートシティのいろは

スマートシティ会津若松にみるヘルスケア分野の新サービス【第14回】

藤井 篤之、谷田部 緑(アクセンチュア ビジネス コンサルティング本部)
2022年6月29日

スマートシティの重要なテーマの1つに、医療・健康などヘルスケア分野がある。日本国内のスマートシティにおいても、その取り組みが徐々に目に付くようになってきた。今回は、ヘルスケア分野の先進事例として「スマートシティ会津若松」の取り組みを紹介する。会津若松では、都市OSと連動する複数のヘルスケアサービスを2022年度中に実装する予定である。

 日本におけるスマートシティの代表例の1つが、福島県会津若松市で展開されている「スマートシティ会津若松」である。同プロジェクトは、2011年3月に起きた東日本大震災からの復興策としてスタートした。以降、10年以上、その取り組みが続けられている(関連連載『会津若松市はデジタル化をなぜ受け入れたのか』)。

 スマートシティ会津若松の特徴の1つは、各種情報の集積と連携の基盤となる「都市OS」が整備されていることだ。市民のIDとひもづいた地域ポータルサイト「会津若松+(プラス)」が稼働するなど、都市OSを活用した様々なサービスが提供されている。

会津は高齢化率が高く医療に深刻な課題を抱えていた

 日本の医療は、市民の高齢化や医療費の増大、医療リソースの逼迫という三重苦状態にあると言われている。会津地域も例外ではなく、地元自治体や医療関係者は「現状のままでは医療が立ち行かなくなる」という危機感を持っていた。特に会津地域は、高齢化率が全国平均よりも高く、医療需要や医療費の公的扶助が拡大傾向にある。医師の高齢化も進行し、研修医がなかなか定着しないという課題もあった。

 一方で、会津若松市には大規模な総合病院が3つ存在し、人口当たりの病床数は全国平均を上回っている。周辺自治体からの患者受け入れ能力を有し、地域医療の中心的役割を果たすという強みがある。

 加えて、スマートシティ会津若松の取り組みが浸透し、「有益な健康医療サービスを持続的に享受するにはデジタル技術を積極的に活用する必要がある」という共通意識が関係者の間に醸成されてきている。これらが好材料となり、会津若松ではヘルスケア分野のプロジェクトの実証・実装が、準備段階を含めて加速的に進行している。

 その1つが「会津若松スマートウェルネスシティ IoTヘルスケアプラットフォーム事業」だ。医療・ヘルスケア分野のデータ連携基盤の構築に向けて、ヘルスケア基盤と各種サービスから生み出されるデータを活用したソリューションの創出・整備を目指している。

 2016年度に、会津地域スマートシティ推進協議会が中心になり最初の実証実験を実施。その後、推進役として設立された「AiCTコンソーシアム」のヘルスケアワーキングループが市民向けヘルスケアサービスの検討・構築・実装を進めている。同グループには、IoT(Internet of Things:モノのインターネット)やヘルスケアビジネスを手掛ける国内外の企業や地元医療機関など約30の事業者らが参加する。

 前回指摘したように、現在の医療においては、日々の健康状態の管理・把握が市民自身の責任とされながら、それを個人が適切に実施することは難しい。症状の気づきや診療の遅れによって病状が重篤化したり寝たきりになったりするリスクがある。

 そこでスマートシティ会津若松では「バーチャルホスピタル会津若松」を掲げている。地域の医療機関や介護関係者、公衆衛生をデジタル技術で連携し“1つの仮想医療機関”とみなすことで、市民の未病対策から治療、予後管理までの医療を包括的に提供する。

図1:「バーチャルホスピタル会津若松」の概念図

 バーチャルホスピタル会津若松では、市民の事前同意に基づいて、正確な医療情報を取得・集約したデータを分析し、疾病の予防や早期発見につなげる。適切で迅速な医療サービスを受けられるようにすることで、市民の健康寿命の増進と医療・介護費の削減を図る。

 以下では、具体例として6つの取り組みを紹介する。まだビジョンの段階にあり実現方法を議論中の取り組みもあるが、いずれも目指すべき姿を共有し、着手済みの取り組みとの継続性を担保している。