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人物理解とゴールの共有が、より良いチームを作る

信頼残高を貯めるチームコミュニケーション~with コロナを勝ち抜くための組織力向上のtips~

DIGITAL X 編集部
2021年1月29日

2カ月に1度の「オフサイト合宿」で考え方やゴールを共有

 こうした課題が、コロナ禍に入ってからはマネーフォワードでも、顕著に見られるようになっていた。そこで取り組んだのが(1)オフサイト合宿・キックオフの開催、(2)相互理解シートの作成と共有、(3)目標設定(OKR:Objectives and Key Results)」の3つの施策である。

図1:コロナ禍になり取り組んだ3つの施策

 オフサイト合宿・キックオフとは、2カ月に1度、地方拠点のメンバーが東京や関東近郊に集まり、直接顔を合わせて数時間、話すための場で、コロナ以前から実施してきた。山本氏は「次の2カ月を乗り切るために、数時間で2カ月分の『信頼残高』をお互いに貯めるための時間です」と説明する。

図2:コロナ以前から取り組んでいた「オフサイト合宿・キックオフ」

 そこでは、相互理解シートを作成し有したり、OKRを設定したりする。「初めて合う新入社員とも、話し方や声、表情、人格を直接知る機会になり、互いの理解が深まります。メンバーの心理的安全性が高まり、チームとしての結束力が高まったと感じています」と山本氏は、その効果を話す。

 相互理解シートには、誕生以来の自身のプロフィールやターニングポイント、それぞれの時期におけるモチベーションの変化、仕事において大切にしていること、考え方などを記す。それを共有し、それぞれの経験や考え方を知る手がかりにする。

 参加したメンバーからは、以下のような感想が得られたという。「人生の浮き沈みを知っていること、知られていることが安心感や結束感につながると思った」「なぜこの人はこういう判断をするのかという根本的な部分を理解できたのは今後のコミュニケーションに大きく影響を与えると思う」などである。

 OKRは、米グーグルなどでも採用されている目標管理ツールの1つだ。ゴール(目標)を決め、そこに向かって取り組むことでパフォーマンスを向上させる手法である。ただ山本氏は、「必ずしもOKRである必要はありません。ワクワクできるゴールを考え、皆で納得することが大事です」とする。

「オンラインでコミュニケーションができるツールは多数ありますが、大切なのは、『ツールを使って何をするか』です。オフラインで経験した『信頼残高』の構築を、オンラインにも応用するといった進め方がいいと思います」と山本氏はアドバイスする。

「ワクワクするように、みんなが賛同するように」ゴールを書く

 コミュニケーションの課題は、山本氏がマネーフォワードシンカへ異動した際にも直面した。事業の立ち上げ時期が、ちょうど新型コロナウイルスの感染拡大と重なったこともあり、「オンラインコミュニケーションの弊害を肌身で感じることになった」(山本氏)という。

 マネーフォワードシンカの設立は2019年9月。初期メンバー7人のうち3人が転職者で、それぞれが異なるキャリアを持ち、マネーフォワードの企業カルチャーを十分に理解する時間のないなかで事業を早期に立ち上げる必要があった。

 そこに新型コロナウイルスによって「2020年2月からはフルリモートになりました。入社したばかり&異動してきたばかりのメンバーが1日でも早く全員で同じゴールに向かって走れるようになる必要がありました」と山本氏は振り返る。

 フルリモート以前の1月21日に「1Day合宿」を開催。そこで相互理解を深め、会社や代表の思いを自分ごと化しながら、全員が一丸になって高い目標を達成する準備を整えることにした。計450分のうち、相互理解に115分、代表の思いを語るセッションに60分、OKRの説明と議論に180分を掛けた。

 相互理解の時間では、相互理解シートを使って、過去の振り返り、互いの思考パターンを認識し、共有することで心理的安全性を感じられるようにした。他己理解が進み、不要な疑念も生まれなくなるという。

 代表の思いを語るセッションでは、「真剣に語ってもらうことが大事。襟を正し、普段なかなか聞けないことを聞く時間」(山本氏)にする。

 OKRでは、大きく6つのステップを繰り返した。OKRを組み立てる過程で、自分たちが目指したいゴールが見えてくる。全員で議論することで腹落ちした状態で共有認識を持つ。山本氏は「ゴールをワクワクするように書く、みんなが賛同するように書くことが重要です」(同)と話す。