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都市のデジタルツインを実現するアーキテクチャーの“あるべき姿”【第3回】

中村 彰二朗(アクセンチュア・イノベーションセンター福島 センター共同統括)
2021年4月22日

観点2:階層(レイヤー)ごとに「統一」「標準」「共通」を考える

 観点1で提案した「統一」「標準」「共通」の組み合わせは、システムの階層(レイヤー)ごとに考える必要がある。分散による“自由”と統一による“スケールメリット”の双方を享受できるように標準化を取り入れた国全体のアーキテクチャーが望ましい。

 まずはシンプルにUI(User Interface)/UX(User Experience)のデザインの統一を検討することが、国民の利便性向上と大幅なコスト削減につながる。

 行政のいわゆる基幹系アプリケーションはマルチテナント型SaaS(Software as a Service)により共通化を実施し、そのうえで一般利用者を対象とした完全なパブリッククラウド化を実現する。地域ごとの市民サービスはユニークさを許容するもののAPIの標準化と都市OSの配置を実施する。

 そして国全体の共通サービスは、国が保有するベースレジストリー(社会基盤となる重要な情報)の活用を容易にするため、データの標準化とアクセスするためのAPIの標準化を図る。

 UI/UXレイヤーとアプリケーションレイヤーについて、もう少し詳しく説明しよう。

UI/UXレイヤー

 国内の行政関連のWebサイトは、市町村、都道府県、省庁、独立行政法人などがそれぞれに構築し運営している。市町村の数は2021年3月末時点で1718だから、その数以上のサイトが存在する。さらに地域で新たなサービスを立ち上げるたびに個別のWebサイトを新たに開設するといった悪しき習慣も蔓延しており、サイトの乱立が目立つ。

 こうした状況を作り出したのは、これまでのプロダクトアウト型・トップダウン型の発想の結果といえる。

 筆者はこれまでに多くの自治体を支援してきた。初めて訪ねる自治体や地域に、どのような特色があるのかを知るために行政のWebサイトを閲覧することも多い。

 どの自治体のWebサイトも、レイアウトや階層が異なり、オープンデータ化もまちまちだ。データを再利用できる形式で公表している自治体もあれば、PDFファイルとして公開している自治体もある。いずれも市民目線の仕様とは言いがたい。入札情報を得たい企業などは閲覧せざるを得ないだろうが、一般市民や観光客が閲覧したいとは思わないだろう。利用率が低迷するのも当然だ。

 行政には情報を公表する責任がある。そのためアクセシビリティに配慮したWebを個別に開発・運営してはいる。ただそれも3、4年程度に1度更新されているような状況だ。Webサイトの作成・運営費の合計を算出できてはいないが、自治体数などからみれば相当な額が費やされていることは間違いないだろう。

 そこで行政系のWebサイトのUI/UXを統一する。世界トップレベルのデザインを施し、かつ最新技術を活用することで「誰一人取り残さない」UXに仕上げ、そのテンプレートを全国の行政が共同で利用する。各行政は、本来業務であるコンテンツ(情報の中身)の充実に専念できるようになる。

 結果、市民生活に密着した情報が得られたり、出張や旅行で訪れる先の情報が得られたり、市民に活用されるWebサイトにつながっていくだろう。

アプリケーションレイヤー

 アプリケーションは大きく行政レベルと地域レベルとに分けられる。

行政レベル:業務の標準化が不可避

 総務省は2020年9月、「デジタル庁」と連携して行政のDXに向けた標準化を進めることを決定し、住民記録システムの標準仕様書を発表した。行政システムを提供するベンダーは、この標準化に従うことになる。だが、これまでと同じ過ちを繰り返さないためにも、自治体ごとのカスタマイズは避けなくてはならない。

 かつて日本の大企業がERP(基幹系情報システム)を導入し始めたころには、導入を受託したSI(システムインテグレーション)ベンダーが企業ごとのカスタマイズ要求に応じたため、稼働遅れを含め種々のトラブルが発生しERPの導入目的を果たせない事例が多発した。

 そこでは、複雑化した個別システムが乱立する結果になり、それらをシステム連携させるために、さらなる追加コストを生むことになった。その経験から多くの企業が、全体最適化を実現するためには標準化を守り、システム導入前の業務改革が重要なことを学んだ。

 本来、自治法の下で運営される行政システムにおいては、ほとんどの業務が共通化できるはずだ。自治体の規模の違いにより組織が細分化させるためプロセスの数は異なるだろうが、事前に業務改革を実施すれば標準化は可能だろう。

 行政のDXが標準化できれば、政府の新たな政策実現や変更に関連するシステムの改修に必要な時間は短縮され、コストは大幅に削減できるだろう。DXは本来、政策を支援するための方法だが、現状は足を引っ張っていると言わざるを得ない行政における業務の標準化は避けて通れない課題である。

地域サービス:データ連携を前提に

 デジタルによる地方創生には地域データの活用が不可欠だ。そのためスマートシティは、地域のあらゆる組織とつながることが前提であり、そのためのデータ連携基盤を整備する必要がある。地域独自のサービスによって地域特性を打ち出すためには、サービス開発の自由化も実現しなければならない。

 さらに地域の成功事例は他地域が再利用するケースも想定される。そのため、データ連携基盤とアプリケーションは標準化されたAPIで連携することが推奨される。

 内閣府の「戦略的イノベーション創造プログラム事業」では想定する標準化の仕様が完成している(内閣府のサイト)。筆者らも「都市OS」というデータ連携基盤を提唱している(関連記事:都市OSを駆動させるスマートシティの要となる「地域データ」(前編))。これらは、スマートシティ分野の全体アーキテクチャーを考えるうえで大いに参考になるだろう。