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都市のデジタルツインを実現するアーキテクチャーの“あるべき姿”【第3回】

中村 彰二朗(アクセンチュア・イノベーションセンター福島 センター共同統括)
2021年4月22日

前回、地域のデジタルトランスフォーメーション(DX)を成功させるために最も重要な軸である「人間中心のDX」と、それを実現するための方法論を紹介した。今回は、地域の集合体でもある国全体が持つべきアーキテクチャーについて考察してみたい。

 国際経営開発研究所(IMD)が2020年に発表した『世界デジタル競争力ランキング』において、日本は27位と大きく出遅れている。スマートシティ/スーパーシティへの関心/取り組みが高まっている今、この機会を生かして国全体のアーキテクチャーを“あるべき姿”に変更し、これまでの遅れを取り戻すことで、誰一人取り残すことなく全国民がデジタル化の恩恵を受けられるようにしなければならない。

 日本の行政は、市町村など基礎自治体が国民1人ひとりを現場でサポートするのが前提だ。その地域を都道府県が、都道府県をまたがる領域別に担当省庁が国全体をとりまとめ、国会と政府が政策運営するという役割分担になっている。

 実際、現場で行うべき対応を現場の判断で実施している。例えば2011年の東日本大震災発生後に、原発事故を受けて福島県大熊町の住民を会津若松市が受け入れるにあたり、体育館などではなく市内の温泉宿で受け入れる判断を下した。この決定は大熊町住民から大きな支持を得た。

 トップダウン型と言われる海外でも現場の対応が求められている。1980年代に赤字に苦しんだスカンジナビア航空では、客室乗務員などによる現場対応のすばらしさが経営を立て直したとされる。その軌跡を改革の立役者である当時のヤン・カールソン社長が書籍にした『真実の瞬間(邦題)』は多くのビジネスパーソンの評価を集めた。

現場力を生かすにはデジタルツインが必要

 こうした“現場力”を最大限生かすために、日本の行政における役割分担においてデジタルトランスフォーメーションを図るためには、どのようなアーキテクチャーが相応しいだろうか。

 結論から言えば、スマートシティ/スーパーシティに向けた「デジタルツイン」を実現できるアーキテクチャーである。

 デジタルツインとは、リアル空間にある情報を示すデータをIoT(Internet of Things:モノのインターネット)などの仕組みで集め、そのデータを使ってネット上の仮想空間にリアル空間を再現することでリアルと仮想を連携するシステム、さらには仮想空間でのシミュレーション結果などをリアル空間に反映し最適化を図る仕組みであり、DXの根幹をなす考え方である。

 第2回で説明した「DXは人間中心であること」「スマートシティ/スーパーシティは市民参加型のオプトインで成り立つこと」に加え、上述した「現場の判断は現場が下すこと」を理解すれば、デジタルツインのためのアーキテクチャーが望ましいことは腹落ちするはずだ。

 都市のデジタルツインを実現するためのアーキテクチャーについて、大きく3つの観点から提案したい。

観点1:「統一」「標準」「共通」のメリットを組み合わせる

 図1は、活用可能な既存サービスに配慮しつつも“あるべき”アーキテクチャーに大胆に変更し、API(Application Programming Interface)ベースで独立性が高い状態で結合する階層別の連携モデルである。この連携モデルでのキーワードは「統一」「標準」「共通」だ。

図1:国全体のシステム基盤として「統一」「標準」「共通」のメリットを組み合わせる

 統一とは、すべての自治体に全く同じ仕組みを導入することだ。シンプルではあるが、それぞれの地域特性に合わせたサービスを許容できず、地域独自の活動を阻害してしまうことになるため本来は取るべき方法ではない。民主主義の日本においては、デジタル化が急速に進んでいる中国のように、すべてのシステムを国が統一し国民に利用させるモデルは実装できない。

 一方で、標準化の指針だけを示し、その実行を各地域に任せる方法では、個別のカスタマイズを許容し従来と同じ失敗を繰り返してしまう懸念が残る。現状、自治体ごと、省庁ごとに全く使い勝手が異なるWebサイトが存在していたり、衆議院と参議院が別々のインターネット審議中継を提供していたりという事例からも分かるように、それぞれの現場にすべてを任せるわけにもいかない。

 そして共通とは、可能な範囲で同じものを導入していくことだ。いわば、地域それぞれの特性も尊重しつつ、統一のシンプルさを活かしていく考え方である。

 こうした「統一」「標準」「共通」のそれぞれが持つメリットを組み合わせることで、市民サービスの充実を最も重要視しながらコスト効率の良さと経営規模のメリットの両立を図ることが重要だと考える。