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プロジェクトを統括するスマートシティアーキテクトのミッション【第6回】

中村 彰二朗(アクセンチュア・イノベーションセンター福島 センター共同統括)
2021年7月21日

役割1:都市マネジメント

 都市マネジメントは、(A)戦略・計画・実行と(B)調整・ガバナンスとに2分できる。

(A)戦略・計画・実行

 都市マネジメントとは、超高齢化人口減少社会にあって持続可能な街づくりを実現するために、戦略や方法論、ルール、そして運営体制の計画を策定、実行することである。

 しかし、スマートシティ/スーパーシティの計画は、都市計画に代わる位置づけであり、従来の都市計画にDXの活用を大胆に取り入れることになる。例えば、教育や医療分野では格差を作らず市民1人ひとりのためのサポート体制を構築するなど、市民サービス全般を向上させ、地域の各産業も再生させるなどだ。

 DXによって各領域をより充実させるだけでなく、縦割りで連携していなかった領域のそれぞれをDXで横断させ、街全体にかかるコストを最大限に削減し効率を高めることもスマートシティのための計画になる。

 国と担当省庁の関係に当てはめて見るとわかりやすい。国土交通省や総務省が担当してきたインフラ整備や行政サービスに対し、「まちをDX」し、その上位で経済産業省が「しごとをDX」する。そして最上位層で市民生活を充実させるために各省が連携し「ひとのDX」を実現する。

 スマートシティアーキテクトは、こうした視点を持って都市マネジメントを統括しなければならない。

(B)調整・ガバナンス

 地域行政が主体的にスマートシティ施策を遂行するにあたり、スマートシティアーキテクトは、政策決定を支援するとともに、DX化を図る際の改善案も提案し、首長とともに戦略を決定する役割を担う。

 ここで、スマートシティアーキテクトという民間人が関わる目的の1つに、長期にわたり継続的にスマートシティ計画を推進する体制を維持することにある。

 行政の担当者は2年ほどで異動するケースが多い。これに対しアーキテクトは、計画遂行のために可能な限り交代することがなく、ミッションを担い続けることが求められる。筆者が会津若松で10年にわたってコミットし続けてきたことが、まさに、その事例といえるだろう。

 スマートシティは地域におけるDXプロジェクトであること、長期にわたることを関係者全員が理解しなければならない。ガバナンス体制を長期間維持するためには、領域ごとに具体的なプロジェクトのマネジメントを担当する専門家をサブアーキテクトとして配置し、行政の担当課や地域の専門組織をマッチングすることが望ましい。

 それぞれの階層が連携し全体のガバナンスを実現することが重要なだけに、あらゆる調整とガバナンス体制の確立と実施が、計画遂行時のスマートシティアーキテクトの重要な役割になる。

 スマートシティは街を丸ごとDXする。行政との連携のみならず、スマートシティに参画する多くの企業とのアライアンス体制へのガバナンスも重要だ。民間アライアンスのサービス全体を掌握し、それら全体を管理する。

 例えば、異なる領域で多くのプロジェクトが実施されているスマートシティにおいて、たった1つのプロジェクトがルールを逸脱したサービスを市民や観光客に提供し、その評判がSNSなどで拡散したとする。そうなれば、関係者全体で築き上げてきた市民との信頼関係を棄損することにつながり、スマートシティ計画全体が止まるという事態も起こりかねない。

 以前、会津若松市において、ある企業から提案があった。「市内にある鶴ヶ城周辺の駐車場にセンサーネットワークとカメラを設置して情報を集め、観光客がどの地域から来ているか分析し今後のプロモーションに活用していきたい」。これに対するスマートシティアーキテクトとしての筆者の答えは「No!」であった。

 確かに管理は便利になり、マーケティングに必要なデータとしての活用も可能になるだろう。しかし、たとえシステム上では車両ナンバーのうち、個別の車を判別できるまでの情報は記録しない仕様になっていたとしても、会津若松の駐車場に停車すると自車のナンバーがデータとして収集されることについて、市民や観光客はどう受け取るだろうか。そのプロジェクトがSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)上で広まった場合、どのようなことが想定できるだろうか。

 会津若松のスマートシティは、オプトインモデル(提供者から事前の同意・承諾を得ているデータのみを活用する)を徹底し、市民にも丁寧に説明しながら理解を得てきた。にもかかわらず、たった1つのプロジェクトが、そのルールを逸脱したオプトアウトモデル(拒否の意思表示をしない限りデータの提供に同意したものとみなす)を導入してしまえば、「監視社会を実現しようとしているのか」など、本来のビジョンとは全く異なる情報が拡散されることになりかねない。

 このような場面でもアーキテクトは、スマートシティの全体感に立って、都市マネジメント戦略に基づいた適切な判断を下さなければならない。

役割2:都市OSのマネジメント

 都市OSそのものについては、別連載の記事『会津若松スマートシティプロジェクトの核となる「都市OS」』で解説した。今回は、スマートシティアーキテクトが、都市OSの重要性を理解し、どのようにマネージするかについて説明する。

 都市OSの機能は標準仕様でまとめられ、データ連携が可能になっている。これは、異なるIT企業が構築したプラットフォームを各地域に提供しても、市民がオプトインしたデータにおいては、他地域でも利活用するためのデータ連携が保証され、利用価値の高いアプリケーションのシェアを広げるためだ。

 日本がこれまでなし得なかった“自立分散環境”を構築するに当たり、そのデメリットだと懸念される“個別最適化”をなくすために、標準化を図る。結果、スケールメリットも享受できる。

 スマートシティアーキテクトは、自身が担当する地域の都市マネジメントだけでなく、都市OSの標準化の実現と維持継続を両立させなければならない。そして最も重要なのは、「ユニークなサービスを実現するため」という理由で、都市OSの標準化を崩し、安易なカスタマイズを許容しないことだ。

 現在、自治体システムが自治体の数だけ存在するのは、国内全体を見ずに個別のユーザー要求に応えてしまったカスタマイズに原因がある。