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プロジェクトを統括するスマートシティアーキテクトのミッション【第6回】

中村 彰二朗(アクセンチュア・イノベーションセンター福島 センター共同統括)
2021年7月21日

役割3:市民参加を促す連携

 本連載で重ねて強調してきたように、スマートシティで実現したい社会は、市民が自身や家族が、次世代や地域のために、まちづくりに参加できる社会であり、そのために市民1人ひとりが保有するデジタルデータを自らの意思で地域の共有財産として提供するオプトイン社会だ。

 そのためには、市民のデータを預かるマネジメント組織と市民との、相互の情報連携が不可欠である。それなしに、市民から共有されたデータの解析結果をパーソナライズし、市民1人ひとりの暮らしのために生かしていくことはできない。

 オプトインとパーソナライズに基づく市民中心のスマートシティ実現のためには、市民の参加こそが最も重要であり、これまでの公共の在り方とは全く異なる市民のマインドセットチェンジが求められる。

 なおオプトインとパーソナライズの関係については、第4回で解説した「DX社会のStage Zero」を参照いただきたい。

 では、市民が真に納得してDXを受け入れ、スマートシティに積極的に参加するようになるために、どうすればよいか。以下に挙げるように、行政や協議会とともに市民向けの活動をリードするのもスマートシティアーキテクトの役割である。

(A)小さな成功体験から始めコミュニティで拡大

 「データを提供・活用することによって自分の暮らしもまちもよくなる」という実感を持ってもらうために、会津若松市では、スマートシティに取り組み始めてまず始めたのが、エネルギーの見える化プロジェクトである。しかも100世帯という小さなコミュニティから開始した。

 当時はスマートメーターが普及する前だった。そのため、HEMS(Home Energy Management System)装置を設置する100世帯を募集し、市民の中からイノベーターたちが集まった。

 同プロジェクトでは、エネルギーの消費データをスマートフォンにリアルタイムに表示した。それぞれの家電の電力消費量を目の当たりにした参加市民は、自然と消費時間を短縮するよう努力し、27%削減を実現した。人はリアルタイムにデータを見たときに行動変容を起こすのである。

 この成果はコミュニティに広がり、1人ひとりの省エネ活動の集合体である地域はまさにSDGs(持続可能な開発目標)に向かうようになった。

 スマートシティアーキテクトは、このようなシナリオを描いてプロジェクトに反映させ、市民との接点を増やしオプトイン率を高めていくのである。

(B)市民の正しい理解と参画を広げるためにオプトインサービスを徐々に拡大

 「データを提供・活用することによって、自分の暮らしもまちもよくなる」という実感を持った市民は、社会でのオプトインのメリットを理解するようになる。スマートシティに自分がオプトインし参加することで、自身へのメリットだけではなく地域や次世代に貢献している実感も持つからだ。上述の27%削減を実現した省エネは、月々の電気料金の削減にもなるが、地球環境の改善にも貢献している。

 スマートシティは多くの領域にまたがっている。なかでも市民の興味が高いテーマが健康だ。特に予防医療へのシフトは、オプトイン社会の実現で進むと考える。自身の健康データを共有することで、パーソナライズされたヘルスケアサービスを受けられる。とはいえ、健康データはプライバシーレベルの高いデータだ。市民がしっかりと理解をして、納得して参画できるようにすることが大切だ。

 ただ、最も重要だからといって、いきなりヘルスケアサービスをスマートシティにおける最初のサービスとして提供しても、市民が、求められている役割やサービスの利便性を理解し、自ら参画してもらうのは難しいのではないか。

 市民の正しい理解を推進し、オプトインにより参画してもらうためには、どのようなサービスから展開していくべきか。サービスのプライオリティを世代別に設定して提供する計画を示していくことも、スマートシティアーキテクトの重要な仕事である。

(C)市民集会ではすべての質疑に回答

 スマートシティアーキテクトは、行政と一緒に、市民向けの対話集会にも出席することになる。そして、首長や行政とともに市民の質問に真摯に対応することが求められる。その際、市民の質問には可能な限り対応するべきだと筆者は考えている。

 スマートシティは都市計画そのものであり、その地域に住むのが市民だ。地域の将来を気にするのは当たり前である。さらに、これまでと違うやり方、つまりDXで解決すると言われれば不安を覚えるのも当然だろう。

 スマートシティは市民あってこそのプロジェクトである。プロジェクトを遂行するためには徹頭徹尾わかりやすく真摯に対応し、市民が納得するまで繰り返すことが重要だ。これもスマートシティアーキテクトの役割である。

役割4:既存の組織との連携

 スマートシティは市民生活のあらゆる分野にかかわるからこそ、まち全体の組織同士を連携させて最大限効率化を追求することも重要だ。そのためには、既存の組織である行政や商工会議所、観光協会、農業関連団体、医師会、教育委員会、大学などとの連携が必要になる。

 都市OSが提供するAPI(アプリケーションプログラミングインタフェース)を使ったデータ連携やサービス連携を実現しなければ、DXによる効果は実現できない。そのためには各組織のリーダーにDXによって想定される効果を認識してもらう必要がある。

 しかし、多くの地域では、個別最適な組織によってIT化が進んでいるとはいえないし、分野を超えた他の組織との連携や共有を経験したことがないことも多いだろう。各組織内のガバナンスは効いていたとしても、それを地域にまで拡大したこともないだろう。

 こうした調整もスマートシティアーキテクトは行わなければならない。そこでは、それぞれのリーダーたちがスマートシティで成し遂げようとしている大きな方向性を共有できなければならない。

「DXは人間中心であり、誰一人取り残さない」をともに目指す

 ここまで、スマートシティアーキテクトの役割を筆者の経験をもとに大まかにまとめた。いずれにせよスマートシティアーキテクトは、スマートシティを成功させることに強くコミットし、市民と地域組織、行政、民間など、あらゆるプレーヤーと連携しながらプロジェクトを推進できなければならない。

 そんなスマートシティアーキテクトを目指すには、それなりの覚悟が必要だ。だからこそ筆者は、東京から会津に移り住み、地元の多くの方々との意見交換の時間を大切にしてきた。現場での生活においても常に肝に銘じていることだが、「DXは人間中心であり、誰一人取り残さない」ことを改めて宣言し、その実現を皆さんとともに目指したい。

中村 彰二朗(なかむら・しょうじろう)

アクセンチュア・イノベーションセンター福島 センター共同代表。1986年よりUNIX上でのアプリケーション開発に従事し、オープン系ERPや、ECソリューション、開発生産性向上のためのフレームワーク策定および各事業の経営に関わる。その後、政府自治体システムのオープン化と、高度IT人材育成や地方自治体アプリケーションシェアモデルを提唱し全国へ啓発。2011年1月アクセンチュア入社。「3.11」以降、福島県の復興と産業振興による雇用創出に向けて設立した福島イノベーションセンター(現アクセンチュア・イノベーションセンター福島)のセンター長に就任した。

現在は、震災復興および地方創生を実現するため、首都圏一極集中からの機能分散配置を提唱し、会津若松市をデジタルトランスフォーメンション実証の場に位置づけ先端企業集積を実現。会津で実証したモデルを「地域主導型スマートシティプラットフォーム(都市OS)」として他地域へ展開し、各地の地方創生プロジェクトに取り組んでいる。