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ディープデータこそが市民の行動変容を促す【第11回】

中村 彰二朗(アクセンチュア・イノベーションセンター福島 センター共同統括)
2021年12月23日

デジタルトランスフォーメーション(DX)の中核にはデータがある。データを真に社会のために活用することは簡単ではない。筆者は、市民がサービス利用時に自らの意思でデータ共有を承認する「オプトイン社会」にこだわり、社会で役立てるための「ディープデータ」が重要だと指摘してきた。今回は、データ活用の本質について解説する。

 データ駆動型ビジネスやデータ駆動型社会への関心が高まる中、ビッグデータの活用やデータサイエンティストの育成が重要といわれて久しい。さらに、個人のデータ(パーソナルデータ)を管理し、個人の意思に基づいてデータを活用する「情報銀行」が新たなビジネスとして注目されもした。

地域戦略にはビッグデータ出なくディープデータが重要

 データ駆動型社会であるスマートシティは地域戦略であり、地域全体をデータによって経営するデジタル化を目指している。そのためにはビッグデータではなく、市民1人ひとりの実体を表す「ディープデータ」が重要になる(関連記事)。

 例えば、新型コロナウイルスの感染が拡大する中、日々ニュースで「○○駅周辺の人流が先週より○%増大した」などと報道されていた。だが、そのニュースを聞いて、不安を覚えつつも具体的に行動を変えなかった人は多いのではないだろうか。これが人流データというビッグデータ活用の限界だ。

 また、いわゆるGAFA(Google、Apple、旧Facebook、Amazon.com)は、ビッグデータによって傾向を分析し、データに基づくマーケティングを展開し、レコメンデーション(お薦め)サービスにより購買率やマッチング率を高めビジネスを拡大してきた。しかし、匿名化されたビッグデータの分析だけでは、人々の人生に深くかかわることは難しい。地域の経営にまで影響を与えることはできないだろう。

 そうした中で日本政府は、大阪で2019年に開催されたG20サミットにおいて、当時の安倍首相が「Data Free Flow with Trust」を世界に向けて宣言した(関連資料)。企業では“4番目の経営資源”とされてきたデータを、世界発展のために国を超えたデータ流通の連携を実現しようとする考えである。

 筆者は当時、この宣言に関与した経済産業省のメンバーと話したが、将来のビジョンとして日本から素晴らしいアイデアが発信できたと大変喜んでいたのを覚えている。

データは誰のものかを明確にする

 そもそもデータは誰のものだろうか。データの収集者だろうか、それとも発生源だろうか。

 スマートシティプロジェクトを進めてきた福島・会津若松市では、「データは発生源(多くのケースでは市民)のものである」と定義している。エネルギーの利用データにせよ、位置情報にせよ、ヘルスケアデータにせよ、市民が発生源となるデータは市民のものであり、だからこそ、市民がその共有・活用の範囲を決めるという、まさにオプトインを中心とした考え方だ。

 これを、「データは、その収集のために投資した者のもの」とすれば、データ収集には莫大な投資が必要なだけに、巨大企業の独占状態が続くのではないだろうか。そして“拒否”の意思表示をしない限りデータの提供に同意したものとみなすオプトアウト型を強制する社会にはならないだろうか。

 「データは市民のものである」という考え方が、市民に浸透していることを浮き彫りにした地域がある。カナダのトロントだ。

 トロントでは、米Googleの兄弟会社である米サイドウォーク・ラボが、Google主導のデジタルシティを作ることを提案し、多額の投資によってインフラ整備を始めた。だが2020年4月、トロント市民の反対を受けて世界最先端プロジェクトは頓挫した(関連記事)。

 すなわち、データは、その収集のために投資した企業のものという考え方は賛同を得られなかったのだ。トロントでの頓挫は、それまでのGAFAのデータビジネスの方向性に大きな影響を与える出来事になった。