- Column
- 匠の技とAI技術が融合する“人間中心”の製造DX
コスモ石油、製油所デジタルツインを基盤にAI予兆保全で稼働率を高める
「Industrial Transformation Day 2026」より、工務部 保全戦略グループ長の吉井 清英 氏
現場・現物・現実を重んじる「3現主義」は、製油所の安全と品質を支えてきた一方で、デジタル化を阻む壁にもなってきた。この壁を越えるためにコスモ石油は、機器・図面・運転データなどをデータ統合基盤に集約する製油所デジタルツインを構築し、AI(人工知能)技術を使う予兆保全の高度化に乗り出している。同社 工務部 保全戦略グループ長の吉井 清英 氏が「Industrial Transformation Day 2026」(主催:インプレス、2026年3月13日)に登壇し、構築の経緯と統合モニタリングルームにおける遠隔保全の最新を話した。
「『現場・現物・現実』という3現主義のアプローチをデジタル空間の中で1つに統合・再現し、その実践を進化させていきたい」--。コスモ石油 工務部 保全戦略グループ長の吉井 清英 氏はこう話す(写真1)。
持株会社のコスモエネルギーホールディングスの中核事業会社であるコスモ石油は、千葉・四日市・堺の国内3製油所で石油精製事業を手掛ける。同社は現在、製油所の種々のデータを活用するデジタル変革「製油所DX(デジタルトランスフォーメーション)」を加速している。
製油所のデータをデジタル空間に集約
コスモが製油所DXに取り組む背景には、ビジネス動向の大きな変化がある。吉井氏は「エネルギー需要や生産年齢人口の変化、カーボンニュートラルへの対応などの課題に直面している」と説明する。
さらに製油所自身が抱える課題として「利益を最大化する組織体質への転換、既有設備を活用した次世代燃料の生産、人に頼る運営から自立自走する製油所への変革、カーボンニュートラルや省エネルギー施策の加速」(吉井氏)などが挙がる。
課題への対応に向けては「組織横断で共通の目標を持ち、投資を判断する必要がある」と吉井氏は強調する。さらに「データに基づくAI(人工知能)技術による意思決定や、在宅での製油所オペレーション、精度の高いシミュレーションによる施策の選別なども重要だ」(同)とする。
ただし製油所には、デジタル化を進めるうえで業界特有の壁もある。例えば、安全性の観点からは「人が現場に出て設備を確認する」ことが、ほとんどの場面で重要になる。加えて吉井氏は「長年にわたって事業を支えてきた古いシステムや設備もが存在し、設備そのものがデジタル化に足かせになる」とも見る。
「製油所のGoogle Map」に着想を得たデータ連携
こうした事情を踏まえ、コスモ石油が変革の軸に据えたのが製油所デジタルツインの構築だ。デジタルツインの基盤としてデジタルプラットフォームの構築を、2023年11月にプロジェクトを立ち上げて取り組んできた。
同社のデジタルプラットフォームとは、種々のデータを収集し、一元管理して活用するためのデータ統合基盤を指す。吉井氏は、製油所のデータ統合の考え方を「Google Map」になぞらえて次のように説明する。
「Google Mapでは、地図だけでなく、店舗の住所や営業時間、クチコミ、経路、混雑予測など、種々の情報を見て判断に生かす。地図データを使ってフードデリバリーサービスを展開するなど、新たなビジネスにもつなげられる。製油所のデータもそのように管理したいと考えた」
そこでデータ統合基盤には、CMMS(Computerized Maintenance Management System:設備保全管理システム)の機器リストや計画指図作業の一覧、ヒストリアン(運転波形時系列データ)、P&ID(Piping and Instrumentation Diagram:配管計装図)や配置図、機器図面といったエンジニアリング文書を連携した(図1)。
図面上であるタグをクリックすると、CMMSなどにある関連データがすぐに手に入る。「タグを共通の起点として、図面と設備管理、運転などの情報を結び付けている」(吉井氏)という。統合には、産業用データ基盤「Cognite Data Fusion(CDF)」(ノルウェーCognite製)を採用している。
特にこだわって連携したデータには、3次元のVR(Virtual Reality:仮想現実)データがある。VRデータは、製油所内を計測した点群データと360度画像によるストリートビューで構成する。
その利用シーンを吉井氏は「図面からVRデータを表示したり、VR上から設備をクリックして図面を表示したりするなど、現場が没入感を持って仕事をしながら、デジタルツインを身近に感じる環境になっている」と説明する。
このほかにも、非財務データ、配管・機器データ、機器検査記録、入出荷データ、振動センサーによる無線モニタリングデータ、巡回点検記録、タブレットで入力した点検記録、回転機や電気機器のAPM(Asset Performance Management:資産パフォーマンス管理)計測データなど、設備管理や運転に関する幅広い情報を取り込んでいる。
今後は「ロボットやドローンによる巡回データ、計器データなどもデジタルプラットフォームに連携する予定」(吉井氏)だ。

