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デジタル化で分断するデータをAI技術でつなぎ新たなものづくりをデザインせよ

「Autodesk University 2023」より、設計・デザイン分野における生成AI活用のこれから

佐久間 太郎(DIGITAL X 編集部)
2024年2月8日

創造的作業のためのAIとしてジェネレーティブデザインの適用が広がる

 創造的作業のためのAIとは、デザイン・設計分野にAI機能を提供するものだ。同領域でAutodeskは、「ジェネレーティブ(生成系)デザイン領域に10年以上前からに取り組み、いくつかの機能を3D CADソフトウェア『Fusion 360』などに搭載してきた」(アナグノスト氏)。CADソフトウェアの「AutoCAD」では、設計データに修正の指示として書き込まれたテキスト文から指示した設計者の意図をくみ取り、その修正に必要な機能を提示するアシスタント的な機能も提供している。

 ジェネレーティブデザインは、建設業などで採用が広がっているとする。建設・エンジニアリング・建築 設計ソリューション担当 エグゼクティブバイスプレジデントのエイミー・バンゼル(Amy Bunszel)氏は、建設分野での大きな課題の1つとして「住宅問題」を挙げる。例えば、米カルフォルニア州では「約300万個の住宅が不足している」(同)という。

 同州の住宅問題に取り組むプロジェクトに、モジュール式住宅を手がける米FactoryOSと建築会社の米MBH Architectsとが進める「フェニックス」がある。モジュラー建築によるワンルームアパートの建設を進める。外壁の素材に炭素の蓄積力が高い菌糸体(キノコ)や、灰を再利用した素材を採用するなど環境負荷の低減を図るのも特徴だ。

 ジェネレーティブデザインは、建設地での計画立案に利用する。屋内に差し込む太陽の光量を考慮しながら、賃貸ユニットの数やソーラーパネルの配置を検討するなどだ。

 そのために建設業向けクラウド「Forma」(Autodesk製)と3Dモデリングツール「Rhinoceros」(米Robert McNeel & Associates製)の連携を強化し、描画図形から寸法情報などを取り込めるようにした。太陽光や風況などが建物に与える影響をAI技術で予測し、その結果をRhinocerosに戻すことで生産性を高めるという(写真2)。

写真2:風況をヒートマップで可視化するAI機能を用いたイメージ

 今後は、ジェネレーティブデザインの機能を「インフラ領域でも利用可能にする」とバンゼル氏は話す。橋や道路、植生などをレイアウトする「生成サイトスタディ」機能や、壁の厚さや窓の配置といった装飾を自動化する「建物ディテーリング」機能を2024年にも提供する。

連携的作業のためのAIが製造プロセスを変えていく

 一方、連携的作業のためのAIは、デザイン・設計した3Dデータに対し、データを目的や使用場面に応じて必要な形に加工したり、次の業務に引き渡したりするための機能を提供するもの。例えば、3Dデータから、製造現場で必要とされる平面図面を生成するなどだ。

 デザイン&製造 エクゼクティブバイスプレジデントのジェフ・キンダー(Jeff Kinder)氏は、「製品デザインで最も時間を要しているのは図面の作成で、エンジニアの時間の60%を奪っている」と指摘する。そこで製造業向けクラウドの「Fusion」において、「3Dモデルから完全な寸法の2D(2次元)図面を自動で書き出せるようにする」と力を込める。

 製造実行システム(MES:Manufacturing Execution System)から製品加工時にCNC(Computer Numerical Control)が必要とする加工経路の位置情報である「ツールパス」を自動作成しワークフロー構築を支援することにも取り組む。そのために、AIエンジニアリングソフトウェアを開発する英CloudNCと協業している。

 製造業の中でも、「自動車業界は特に大きな転換期を向かえている」とキンダー氏は指摘する。「100年に1度の転換期にもかかわらず、多くのメーカーやサプライヤーは準備ができていない。新旧テクノロジーの間で立ち往生している」(同)という。

 新しいテクノロジーを使ったデザインと製造プロセスを検討している好例としてアナグノスト氏は、新興EV(電気自動車)メーカーの米Rivian(リヴィアン)を挙げる。「どのような自動車を作るかだけでなく、製造方法そのものを再考している」(同)からだ。

 具体的には、自動車デザイン向けレンダリングソフトウェア「VRED」(Autodesk製)を使用し、Fusion上にVR(Virtual Reality:仮想現実)技術を使った仮想スタジオを構築し、デザイン担当だけでなく関係者を含むチームで共同作業に当たっている。一般には、モックアップを実際に作成し使用する素材を検討しながら進める作業だ。

 仮想スタジオでは、試作用の素材が不要になるほか、部品開発やエンジニアリングのチームから受け取った設計書を元に、製造可能性を含めたデザインを何度も繰り返して検討しているという。3Dデジタルモックアップの生成は、自動車設計向けAI技術を開発する米BlankAIを2022年に買収し実現している。