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デジタル化で分断するデータをAI技術でつなぎ新たなものづくりをデザインせよ

「Autodesk University 2023」より、設計・デザイン分野における生成AI活用のこれから

佐久間 太郎(DIGITAL X 編集部)
2024年2月8日

製作スケジュールを生成AIが立案

 メディア&エンターテインメント業界を担当するエクゼクティブバイスプレジデントのダイアナ・コレラ(Diana Colella)氏も、「同業界では高品質なコンテンツ提供へのプレッシャーが強まっており、スタジオのあり方自体を変える必要がある」と強調する。

 メディア&エンターテインメント業界向けクラウドの「Flow」では、スタジオの制作機能を統合する動きに応え、データ連携や互換性を高めている。例えば、ビデオ編集ソフトウェア「Media Composer」(米アビッド・テクノロジー製)との連携や、CGアニメーションソフトウェア「Maya」(米Autodesk製)とCGソフトウェア「Wonder Studio」(米Wonder Dynamics製)間でのデータ交換などだ。

 そこでの連携的作業のためのAI技術は、「特にシナリオプランニングとスケジュールの最適化で効果を提供できる」(コレラ氏)とする。監督が変更を指示すれば、「その後の製造工程への影響を含めた計画を生成AI技術が数分で立案できる」(同)という(写真3)。新たな計画は、Flow上にあるストーリーボードを使って、カメラマンや編集者などの制作スタッフが共有する。

写真3:生成AI機能を使って製作スケジュールを立案する。写真は、縦軸に制作部門の別を、横軸を作業の進行予定として必要な作業量を可視化した画面

データをクラウドに集めAPIで利用する

 創造的作業のためのAIと連携的作業のためのAIのいずれにおいても不可欠なのはデータだ。エクゼクティブバイスプレジデント CTO(最高技術責任者)のラジ・アラス(Raji Arasu)氏は、「AI技術の活用にはデータが不可欠だ。データを高品質で実用的なものにするためにプラットフォームサービスに投資してきた」と強調する(写真4)。

写真4:米Autodesk エクゼクティブバイスプレジデント CTO(最高技術責任者)のラジ・アラス(Raji Arasu)氏

 プラットフォームサービスとは、製造業向けのFusion、建設業向けのForma、メディア・エンターテインメント向けのFlowという業界別クラウドのことだ。これらクラウドでは、サードパーティー製を含む各種のSaaS(Software as a Service)をAPI(アプリケーションプログラミングインターフェース)で接続する。

 外部からのAPIの呼び出しについてアラス氏は「2023年1月以来、420%増加した。同プラットフォームに集まる顧客データも2倍に拡大し、40ペタバイトにも増えた」と明かす。「これらデータをリアルタイムに利用することで、チームは同時に、速く、共同作業ができるようになる」(同)とする。

 例えば、ドイツの建設会社GOLDBECK(ゴールドベック)は、APIを用いてクラウド上にあるデータをリアルタイムに呼び出せるようにした。さらに対話型の検索機能をBIM(Building Information Modeling:建物情報モデリング)ソフトウェア「Revit」(米Autodesk製)に組み込み、生成AIを用いた出力機能を実装して、会話に近い形でナレッジに基づく回答を得ている。

 将来的には、「Autodesk製品が持つデータをERP(Enterprise Resources Planning:企業資源計画)システムから利用できるデータアクセス機能を提供したい」とアラス氏はいう。アナグノスト氏も「データの実用化を図り、顧客がAI技術に対する競争優位性を持てるようにしたい」と力を込める。

 サードパーティ製品とのコネクター開発を促すためのSDK(Software Development Kit:ソフトウェア開発キット)や、データ流通のための共通データモデルとして「Autodesk Data Model」も用意する。

 Autodesk Data Modelについてアラス氏は、「ツールごとにファイル形式が異なるデータから必要な“粒度”のデータを取り出すことで、大規模なデータからわずかな関連情報を得たり、ワークフローを拡張したりが可能になる」と説明する。

 アナグノスト氏は「AIの需要がクラウド化を推し進めている。AIは人手不足の問題を解決するだけでなく、新しい仕事を生み出す可能性がある」と強調する。創造的作業のためのAIと連携的作業のためのAIを組み合わせた新しい働き方が、我々の未来をどうデザインしていくのかに注目したい。