• News
  • 製造

生成AI時代の設計はタスクが自動化されアイデア創出に集中できる【後編】

「Autodesk University 2024」より

佐久間 太郎(DIGITAL X 編集部)
2024年12月19日

プロジェクト関係者とともに設計にアイデアを重ねる

 建設業向けのAEC Data Modelでは、構造化した設計データをプロジェクト管理基盤「Docs」で管理する。建設業向けクラウド「Forma」と連携し、BIM(Building Information Modeling:建物情報管理)ソフトウェア「Revit」との統合により都市計画や建築設計にも利用可能にした。今後は、建設プロジェクトにおけるコンセプト設計やシミュレーションの機能を強化していく。

 AECデザインソリューション担当のエクゼクティブ・バイス・プレジデントのエイミー・バンゼル(Amy Bunsel)氏は、「より良いデータからは、持続可能性の目標を達成するための強力なインサイトが得られる。修正や変更が最も困難な最終段階での後付けではなく、設計の初期段階から測定ができ達成が可能な成果を設定できるようにする」と意気込む(写真3)。

写真3:米Autodesk AECデザインソリューション エクゼクティブ・バイス・プレジデントのエイミー・バンゼル(Amy Bunsel)氏

 Forma活用例としては、建築事務所の米Baker Barrios(ベイカー・バリオス)を挙げる。同社が担当した米フロリダ州オーランドにある複合施設の建設では、Formaが持つ風況や日照のシミュレーション機能を使い、湿度と暑さに対し快適になる建物の位置や建物の形状を検討した(図2)。施設のオーナーもForma上でプロジェクトの進捗をリアルタイムに確認し、そこで出たアイデアをBaker Barriosが反映するなどしたという。

図2:建設業向けクラウド「Forma」が持つ日照シミュレーション機能の利用例

 チーム連携のためのホワイトボード「Forma Board」も開発済みだ。Formaや他のAutodesk製ソフトウェアから図形や画像などのモデルを取り込み、複数人でのレビューを可能にする。「視覚的な情報を元に、コンセプトをデモンストレーションしたり、フィードバックを求めたりすることで、適切な意思決定を支援できる」(バンゼル氏)とする。

 Revitによる連携事例として、2024年に開かれたパリオリンピックの選手村建設を挙げる。その設計では、11の建築事務所から40人近い建築家がRevit上で連携し、主に施工管理向けデータ基盤「Autodesk Construction Cloud」を通じてBIMモデルを共有した。

 設計者はRevit上で、壁や床、屋根などの建築要素に断熱材を割り当てる機能を使用。自然換気を考慮した空気の流れのシミュレーションや、CFD(Computational Fluid Dynamic:流体解析)ツールと連携した解析により、「二酸化炭素(CO2)排出量を選手村全体で50%の削減を達成した」(バンゼル氏)とする。

 Revitを使用していない製造部門などの関係者とも、標準的なファイル形式である「IFC(Industry Foundation Classes)」へエクスポートすることでデータを共有したという。

持続可能性に対する計画の重要性が高まっている

 Autodeskは業界向けクラウドにおいて分散したデータを統合し、人やプロセスを相互に接続することに注力している。チームの役割は、共同開発者やパートナーへと広がり、設計作業が、よりオープンになっている。その背景をアナグノスト氏は、「ステークホルダーがデータ統合や透明性に対する圧力を強めており、業界全体の連携に向けて新たな段階へと移行している」とみる。

 Autodeskは2024年6月、Data ModelにアクセスするためのAPIとして「AEC Data Model API」をリリースした。アナグノスト氏は、「Autodesk Data Modelをハブに、APIによってデータを必要な場所に移動するための経路を提供する」と話す。Data Modelへの接続を容易にすると同時に、Data Modelを使ったAutodesk AIの提供も加速したい考えだ。

 意思決定におけるデータの重要性は高まる一方だ。顧客ニーズに合った製品を短いサイクルで出荷し続けなければならない。そこでは「初期の構想が時としてスピーディーに進んでしまうことがあり、持続可能な計画の策定に信頼できるデータから生まれるデザインが直結している」とアナグノスト氏は指摘する。

 そこでは、前編で紹介した「Project Bernini(プロジェクト・ベルニーニ)」に見られるコンセプトデザインのための生成AI技術への期待も高まる。Autodesk AIが目指す“実用的なAI”が、設計の高度化や働き方改革にどう影響していくのか、今後の機能強化や実用化を注視したい。