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【CES2025:デジタルツイン編】工場や自動運転車、さらには人体までもが対象に
家庭用先行ながらも業務用途での普及が加速
街や人間を対象にしたデジタルツインも登場
デジタルツインの利用シーンは、さまざまな業界に広がっている。建築業界が、その1つ。建設時の設計だけでなく、建設後に周囲へ与える日照や風、反射の影響のシミュレーションなどに使われている。
スマートシティなど、街全体を対象に、必要なインフラの設計や試算、人流を考慮した公共交通の計画などに利用されるケースもある。自動運転車を開発する際に、実際に道路を走行する前にデジタルツインで構築した仮想の街中を試運転し、安全性を検証するのも特別なことではなくなっているという。
自動車・軍事関連企業である米Oshkoshは、街や空港で使用する作業用車両の自動化と運用を開発するために、デジタルシミュレーションを活用している。一例として、航空機の離着陸や荷物の数に合わせて乗客の荷物を効率良く運べる自動運転車両と、その運用を紹介していた(写真3)。
人間をそっくりそのままデジタルツイン化する「デジタルヒューマン」への活用も紹介された。設計・製造関連ソフトウェアベンダーの仏Dassault Systemsだ。
同社は2023年のCESで、手術と臨床試験に利用できる心臓と脳のデジタルツインを発表し会場を驚かせた。2025年は対象を人間の体全体に広げ、同社が「バーチャルツイン」と呼ぶ仮想データとリアルタイムデータを統合することで、パーソナライズされたヘルスケアを実現する方法を提案した(写真4)。
人体のデジタルツインを使って将来的に実現可能性がある技術として、病気の予測や、個人の体質や遺伝的要素に合わせた治療方法、ストレスの解消などを挙げている。アシックスと連携し、運動能力を高める機能を持つフットウェアのバーチャル体験コーナーも用意した。
SONYはクリエイターに向けた新ブランドを発表
デジタルツインの運用においては、仮想世界と現実世界を結ぶHMDが重要な位置を占める。複合現実を体験できるデバイスは、米Microsoftが2016年に「HoloLens」を発売したが、30万円を超える価格のため、あまり普及せず同社も開発を中止している。
だが2023年末に米MetaがMRヘッドセット「Meta Quest 3」を約8万円でリリースしたことで再度市場が広がってきた。その影響もあり2024年のCESでは多くのMR/VRデバイスが出展されていた。そうした中で2025年のHMDで話題になったのが冒頭でも紹介したSiemensとSONYが共同開発するXR HMDの正式リリースだ。
ただSONYは、Siemensとは方向性を変え、クリエイター向けツールとしての新ブランド「XYN(ジン)」を発表し、クリエイター用HMDを「XYN HMD」と名付けた。SONYはクリエイターが求める高品質な作品を、デジタルツインを使って制作する新手法「バーチャルプロダクション」を推進しており、制作用のソフトウェアとハードウェアを統合して提供する。
SONYは、裸眼でデジタルツインを体験できる高精細度ディスプレイとデータ作成ツールも開発している。実空間にあるモノを撮影すれば3D化が図れ、即座にディスプレイ上で見られる。デジタルツインでの作業をHMDを使わずに確認でき、スムーズな協同作業を可能にする(写真6)。
裸眼で立体視できる高精細度ディスプレイは、これまでも各社が出展してきた。2025年も多数が出展されていたが、ここでも、家庭用よりも業務用での普及が先行するのではないかと思われた。
デジタルツインの構築に向けて、静的なデータだけでなく、動的なデータや精密なデータもリアルタイムで収集できるようになってきている。2025年は、まだアイデア段階のものも多かったが、次回に向けては、さまざまなキャプチャ技術や分析・応用について、より具体的な提案がでてくると期待できそうだ。