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【CES2025:デジタルツイン編】工場や自動運転車、さらには人体までもが対象に

家庭用先行ながらも業務用途での普及が加速

野々下 裕子(NOISIA:テックジャーナリスト)
2025年2月21日

世界最大規模の国際テックイベント「CES2025」で“次に来るトレンド”の1つに挙がるのがデジタルツインである。実世界と仮想世界をリアルタイムに融合する同技術は、高度なシミュレーションの実現や高精細度ディスプレイによるイマーシブ(没入型の)体験などに応用できる。従来のエンタテインメント中心から産業用途に広がってきたのが2025年の特徴だ。

 コンピューティングと通信技術の急速な進化により、実世界と仮想世界をリアルタイムに融合するデジタルツインが、現実のものになろうとしている。世界最大規模の国際テックイベント「CES2025」でも、デジタルツインを活用するアイデアが会場のあちこちで見られた。

 デジタルツインは、実空間にある物体や建物、空間などのデータをIoT(Internet of Things:モノのインターネット)技術などで収集し、それを仮想空間に再現する技術である。仮想空間に再現したものを「メタバース」と呼ぶこともある。仮想空間にあるデータを加工・分析すれば、色や形を変えて新しいデザインを試したりレイアウトを確認したり、シミュレーションにより最適解を探索したりが可能になる。

 CESでは早くから、仮想空間にアクセスする技術としてAR(Augment Reality:拡張現実)やVR(Virtual Reality:仮想現実)、それらを組み合わせたMR(Mixed Reality:複合現実)などが紹介されてきた。従来は、メタバースでのコミュニケーションやイマーシブ(没入型)な仮想体験など、エンタテインメント用途が強調されてきた。それがCES2025では、製造や建築、医療など産業用途での利用が目立つようになってきた。

米NVIDIAや独Siemensは工場や設計現場にデジタルツインを適用

 CES2025においてデジタルツインを最も推していたのは米NVIDIAである。CEO(最高経営責任者)のJensen Huang氏自らが基調講演でデジタルツインを活用する技術を立て続けに発表した。

 その1つが「NVIDIA Cosmos」だ。デジタルツインを使って自動運転技術ややロボットなどを開発するためのプラットフォームである。AI(人工知能)技術によって実空間を学習することで、現実に近い空間や環境を再現し開発中の製品のシミュレーションを可能にする。

 既に提供済みのデジタルツイン用プラットフォーム「Omniverse」と連携すれば、さまざまな3D(3次元)デザインツールやCAD(コンピューターによる設計)ソフトウェアを仮想空間で利用できる(写真1)。

写真1:米NVIDIAのJensen Huang CEO(最高経営責任者)は基調講演でデジタルツイン関連製品を自ら発表した(基調講演の録画から引用)

 NVIDIA Cosmosを既に使い始めている企業があるとし、開発者向けのAI学習用のデータセットやユースケースも公開された。Huang氏は「将来的には全ての工場にデジタルツインが導入されるだろう」と語っている。

 独Siemensも産業用デジタルツインを推し進める企業の1社である。メディアカンファレンスでも大々的に紹介し、「産業用のイマーシブ・エンジニアリングを実現する」と強調する(写真2)。SONYと共同開発するHMD(ヘッドマウントディスプレイ)の「XR HMD」を正式にリリースした。

写真2:独Siemensはソニーと共同開発した「XR HMD」を使いデジタルツインを活用する「イマーシブ・エンジニアリング」を推進する

 航空系スタートアップの米JetZeroとも連携し、JetZeroが推進する「持続可能な未来の工場」の建設に向けて、イマーシブ・エンジニアリングを実現するための「Xceleratorプラットフォーム」を提供すると発表。今後は、デジタルツインの活用範囲を航空機以外にも広げる考えで、自動車設計用のソフトウェアを米IBMとアクセンチュアと協力して開発中だとも発表した。