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お金の分析:その3=年代別モデル~50歳からのお金のサバイバル術〔前編〕【第27回】

入江 宏志(DACコンサルティング代表)
2019年11月25日

前々回から「お金の分析」をテーマにしている。前々回は投資信託の商品性を、前回は最適なお金の増やし方を見つけるプロセスを解説した。今回は、「最も貯蓄ができていない」とされる50代を対象に、将来に向けたサバイバルのためのモデルについて、前後編に分けて説明する。なお国民年金の保険料や銀行の金利などは2019年11月時点の情報を使っている。

 特定の個人にとっての“お金”について分析するためには、その人の、さまざまな特徴が必要になる。属性や収入・支出、財産、考え方などを入力データとして判別分析することで、色々なことが分かる(図1、第6回参照)。

図1:判別分析によりお金に関する年代別モデルを作成する

 分析に必要なアルゴリズムを難しく解説することも可能だが、今回は年代別モデル、なかでも「最も貯蓄ができていない」とされる50代のモデルについて、膨大なデータ分析から得られた結果を元に説明する。50代(世帯主)の金融資産は、総務省の『全国消費実態調査(令和元年は『全国家計構造調査』に名称変更)』によると989万円である(貯蓄残高1596万円から負債残高607万円を引いた結果。2014年)。

 最近は会社に勤めていても60歳になる前に、その会社を辞める人も少なくない。米国には「FIRE movement」という言葉がある。「FIRE」は「Financial Independence, Retire Early」の頭文字で、老後に必要なお金を計算し十分な貯蓄をしたうえで早期退職することを指す。解雇(fire)されたのか、自発的なのかはともかく、FIRE movementという動きは50代で目立ってくる。

 そうした際に知っておきたいのが「会社を辞めると今後、いくらぐらいお金が必要になるのか」だ。正解は、条件によって変わる。正解にたどりつくまでを順を追って分析していく。

早期退職後に必要な貯蓄額は2500万〜4000万円

 老後、ましてや早期退職をしてから必要なお金は簡単には語れない。金額も十人十色である。ただ目安は必要だ。たとえば米国では、早期退職時に必要な額は、「退職時の給与収入の8倍」が理想とされる。現役時代と同レベルの生活水準で老後を快適に暮らせるように計算されたものだ。

 余裕を見て米国式の数値を参考にしても良いが、日本の場合は状況が違う。そこで、関連するデータを筆者が回帰分析により簡易的に試算してみた。結果、日本では以下の式で得られる金融資産を“最低限”持ったうえで早期退職することが望ましいというのが結論だ。

  早期退職後に必要な貯蓄額【簡易的な試算】
  = { ( 65 - 現在の年齢 ) × 0.1 + 4 } × 生活水準 × 最終の給与収入

 厳格に計算するには要素が複雑になる。物価スライドや、公的年金の額、私的年金(個人年金や企業年金のこと)の額、家族の数、余裕度、今後の収入、将来の計画、投資計画、受け取れる遺産額、持っている不動産の価値、健康状態などを加味する必要があるからだ。なお、計算式の対象者の年齢は50歳以上であり、給与収入は正社員で働いていたときの最終の年収とする。

 読者は、現在の給与収入で計算してもらえば良いが、たとえば、55歳の平均年収は、国税庁の民間給与実態統計調査に基づく値は500万円程度である。この数値を使い、今後の生活水準を同等(1.0)と仮定すると、早期退職後に必要な貯蓄額は2500万円( { ( 65-55 ) × 0.1 + 4 } × 1.0 × 500万円)になる。米国式の8倍で計算すれば、4000万円(8 × 500万円 )にもなってしまう。

 今後の生活水準をどうするかという要素もあるが、50代(世帯主)の金融資産989万円という現実は理想とは程遠い。理想はあくまでも理想ではあるが、現実を理想に少しでも近づけるため、早期退職をする場合は、さまざまな課題を検討すべきである。それでも理想と現実のギャップがあまりにも大きければ、「会社を辞めず、まだまだ給与収入を得るべき」ということになる。