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デジタルディスラプターの先行優位性は3年未満【第17回】

今井 俊宏(シスコシステムズ イノベーションセンター センター長)
2019年3月11日

ディスラプション(破壊)は、既存のビジネスモデルに対し、デジタルを駆使するディスラプターによって起こる。しかし、そのディスラプターにしても、次のチャンスを虎視眈々と狙っているスタートアップ企業からの追い上げを受ける。新旧のデジタルディスラプターの間でも、激しい競争が繰り広げられているのだ。

 市場に破壊的なインパクトをもたらしてきたデジタルディスラプター。しかし、市場には類似のサービスがすぐに登場し、先行優位性は実は、それほど長くは続かない。多くの場合、デジタルディスラプターの先行優位性は3年未満とされ、非常に短い。デジタル化によってもたらされる市場競合が、いかにし烈を極めるかを物語っている。

 先行するディスラプターに迫り来るのが、株式評価額(時価総額)が10億ドルを超えるスタートアップ企業である「ユニコーン」や同100億ドル以上の「デカコーン」だ。そんな企業が次々と台頭してくるのがディジタルの世界である。

Amazonでも先行優位性は約2年、例外はAWSの約7年

 デジタルディスラプターの代名詞とも言えるのが大企業の米Amazonだ。これまで、顧客の声に常に耳を傾け、徹底的にカスタマーバリューにフォーカスし、新たな市場を開拓。斬新なデジタルサービスも多数、提供している。しかし、それらサービスの多くは実際には、それほど先行優位性が大きいわけではない。

 たとえば、電子ブック市場向けに「Kindle」が投入されたのが2007年11月。その後、米Appleが「Apple Books」を投入したのが2010年1月だから、その差は約2年である。音声アシスタントデバイス市場に「Amazon Echo」が投入されたのは2014年11月だが、米Googleが「Google Home」を投入したのは2016年11月。その差は2年だ。

 例外は、企業ユーザーを対象にしたITインフラストラクチャサービスとして2006年に提供が始まった「Amazon Web Service(AWS)」だけである(図1)。Amazon CEO(最高経営責任者)のJeff Bezos氏が言うところの「約7年の先行優位性」がある。

図1:圧倒的な先行優位性を有するAWS

 クラウドコンピューティングは今や、大手ITベンダー各社がこぞって注力する成長市場だ。しかし、MicrosoftやOracle、IBMといった米大手IT企業がAWSに、これほどの遅れをとったのは、「既存のコア事業を破壊してしまうかもしれないクラウドコンピューティングという新たなビジネスモデルを、自身で本当に加速させたいのか」というジレンマを長く抱えてきたことが一因だと想像できる。

 デジタルボルテックスの中心にあってデジタル時代を牽引している、これら既存の大手IT企業にあっても、従来事業を危険に晒し破壊するかもしれない新たなビジネスモデルへ本気で舵を切り、アグレッシブにトランスフォーメーションすることが、いかに難しいかを示している。

Uberが創造したライドシェア市場にデカコーンが続々

 本連載の第10回
第2回で、デジタル化がもたらす破壊的ビジネスモデルを考察する際に取り上げたのが、デジタルディスラプターのデカコーンである米Uber Technologiesだ。2019年1月時点の株式評価額は720億ドル(米CB Insights調べ、以下同様)で、同社がライドシェアサービスの先駆けであることは疑う余地がない。

 Uberが設立されたのは、今から約10年前の2009年3月。2010年7月に米サンフランシスコでいち早くライドシェアサービスの「Uber」を開始し、その後、全世界へとサービスを拡大してきた。今では80以上の国や地域、600以上の都市でサービスを提供するグローバルプレイヤーである。1日の平均乗車数はUberだけで550万以上あり、ライドシェアサービスは、その利便性の高さが受け、市場は今後も拡大すると予想される。