• Column
  • Digital Vortex、ディスラプトされるかディスラプトするか

デジタルディスラプターの先行優位性は3年未満【第17回】

今井 俊宏(シスコシステムズ イノベーションセンター センター長)
2019年3月11日

中国で台頭するユニコーンとデカコーンがBATを脅かす

 中国に目を向ければ、デジタルディスラプターの代表はAlibabaとTencentだ。従業員数はAlibabaが約6万6000人、Tencentは約4万5000人と、それぞれが中国を代表する大企業に成長した。そして今も事業の拡大に余念がない(第12回第13回を参照)。

 死角がないように見えるAlibabaとTencentも、規模が大きくなるにつれ、大企業にありがちな問題への対処には苦労しているようだ。その問題とは、アジリティーの鈍化と、ニッチでユニークな市場要求への対応である。中国で次々と台頭するユニコーンやデカコーンは、まさにそこを突いている(図3)。

図3: BATを脅かす中国のユニコーン/デカコーン

 その一例が、若い女性向けソーシャルECプラットフォームである「mogujie.com」と「meilishuo.com」が2016年に合併して誕生した親会社のMeiliだ。mogujie.comは18〜23歳の女子学生を、meilishuo.comは23〜30歳の若いホワイトカラーの女性をそれぞれターゲットにしている。購買の原点とも言える若い女性に的を絞っている点がユニークである。

 Meiliは、2018年7月にIPO(株式の初回公開)する前は、株式評価額30億ドルのユニコーンだった。ユーザー数はすでに2億人を超え、1日当たりのアクティブユーザー数も1000万人を超える。Alibabaへの対抗を模索するTencentが接近しており、同社に出資するほか、チャットツール「WeChat」との機能連携も進めている。

 一方、中国で最大級の越境ECアプリを展開するXiaoHongShu(通称RED)は、18〜35歳の都会に住む女性をターゲットにするユニコーン(株式評価額は30億ドル)だ。2013年に、商品の感想やクチコミを投稿するショッピングコミュニティサイトとして始まった経緯もあり、コミュニティの強みとECを密接に結びつけたコミュニティECプラットフォームとして成長している。

 REDのユーザー数は7000万人を超える。REDには2018年6月、Alibabaが出資し、Alibabaが運営するECプラットフォームである「Taobao」との連携を進めている。SNS(ソーシャルネットワーキングサービス)や独自コンテンツが弱いAlibabaは、REDのようなコンテンツを持つ企業と組むことでTencentに戦略的に対抗している。

BATの“B”はBaiduから「TikTok」のByteDanceへ?

 MeiliやREDの例に見られるように、AlibabaやTencentは、ユニコーンやデカコーンを自身の巨大なエコシステムに組み込むことで、彼らの驚異を上手く回避している。ただ、その手が常に上手くいくとも限らない。

 Alibaba/Tencentを急激に追い上げるByteDanceが、その一例だ。中国初のグローバルアプリとして注目された「TikTok」(音楽に合わせて15秒程度の動画を共有するアプリ)を運営するデカコーンである。同社の株式評価額は2019年1月時点で750億ドルにも登り、Uberの720億ドルをも上回る。

 ByteDanceはTikTokのほかに、AI(人工知能)を活用したニュース配信プラットフォームの「Toutiao」、動画アグリゲーションサービスの「TopBuzz」や「BuzzVideo」などを展開している。これらのアプリは、中国のモバイルインターネットユーザーのアプリ利用時間の約10%を占有し、Tencent、Alibabaに次ぐ第3位になっている。

 そのByteDanceは今、TikTokの機能拡張を進めている。EC機能の追加や、広告やショッピングプラットフォームとしての展開も図る。AlibabaはByteDanceに出資しているものの、ByteDanceがEC市場に参入したことを機に、将来的な衝突が避けがたい状況になりつつある。そしてまたTencentは、TikTokに似たアプリを投入したほか、WeChatからはTikTokへはリンクを貼れないようにするなど敵対的な対応に出ている。

 ネットへのアクセス環境がスマートフォンにシフトして最も変化したのは、検索をしなくなったことだと言われる。検索の代わりにスマホアプリを直接、開くからだ。ByteDanceが中国3強の一角に躍り出たことで、「BAT」の“B”が検索エンジンで名を馳せた BaiduからByteDanceに変わる日が、そう遠くないうちに訪れるのかもしれない。

今井 俊宏(いまい・としひろ)

シスコシステムズ合同会社イノベーションセンター センター長。シスコにおいて、2012年10月に「IoTインキュベーションラボ」を立ち上げ、2014年11月には「IoEイノベーションセンター」を設立。現在は、シスコが世界各国で展開するイノベーションセンターの東京サイトのセンター長として、顧客とのイノベーション創出やエコパートナーとのソリューション開発に従事する。フォグコンピューティングを推進する「OpenFog Consortium」では、日本地区委員会のメンバーとしてTech Co-seatを担当。著書に『Internet of Everythingの衝撃』(インプレスR&D)などがある。