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  • 会津若松市はデジタル化をなぜ受け入れたのか

「市民中心」こそがスマートシティプロジェクトの本質【第18回】

会津地域スマートシティ推進協議会会長/スマートシティ会津代表の竹田 秀 氏との対談

中村 彰二朗(アクセンチュア 福島イノベーションセンター センター長)
2019年4月18日

人口減少社会の課題解決に向けヘルスケアとICTが融合する

中村 そもそも会津若松スマートシティプロジェクトの背景には、会津地域だけでなく日本全国の地方都市が抱える共通の課題がありました。

竹田 現在の日本が抱える最大の問題は、人口減少社会に直面していることです。地域の消滅可能性を指摘した『増田レポート』(日本創成会議・人口減少問題検討分科会、『成長を続ける21世紀のために 「ストップ少子化・地方元気戦略」』、 2014年)がもたらした衝撃はあまりにも大きいものでした。

 人口減少の課題をいかにして克服するか。私は以前から、ヘルスケアとICTの2つが基軸になるだろうと考えていました。会津地域のICT関連企業が集結し、その地域の活性化活動に取り組むことは、人口減少に歯止めをかけるために非常に重要なことだと認識しています。

 そのお手伝いを志し、推進協議会の幹事会の会長とスマートシティ会津の代表理事をお引き受けすることにしたのです。

 私はかつてICT関連企業に勤務していたこともあり、データ管理と情報システム開発の経験がありました。医療分野でも電子カルテなどICTの活用が一般的です。今日ではヘルスケアとICTは融合しつつあるとも言えます。

 スマートシティ会津の発足以前から、アクセンチュアとはヘルスケア分野で協業してきました。ウェアラブルセンサーを使ってバイタルデータを収集し、医療的アドバイスを提供する事業です。

中村 2016年のプロジェクトですね(第7回参照)。総務省、会津若松市、そして竹田綜合病院や私たちが参画し共同展開した事業です。

 今後、病院経営をデジタル化し、QRコード決済などが実用化・普及すれば、会計待ちがなくなり、来院者の利便性が格段に高まります。診察が終われば、そのまま帰宅でき、処方箋データを薬局に送信することで薬が宅配便で自宅に届くといった新規事業にも発展させたいですね。そうしたメリットが具体的な形をもって体験できるようになれば、市民の参加は加速するでしょう。

 電子カルテへの入力作業も、AI(人工知能)の活用や音声認識・音声入力の実現を目指しています。医師を入力作業などの事務から解放し、患者1人ひとりと向き合う時間を少しでも増やせれば、より良い医療や、医師の効率的な働き方の実現をサポートできると考えています。そうした利便性を含めて参加を促すことがプロモーション的には重要です。

竹田 スマートシティ会津の企業会員は、必ずしもICT関連企業だけではありません。他業界の企業も多数参加しています。ICTをユーザーとして利用する立場の企業にも、ぜひスマートシティ会津の会員企業になっていただければと思います。

企業間格差を「コネクテッド」が是正する

中村 竹田綜合病院は地域の中核となる大規模な総合病院です。メーカーなども足繁く通ってきています。ところが地方都市の中小企業に新しい提案が持ち込まれることは滅多にありません。

 日本では、大企業は大企業同士、中小企業は中小企業同士で付き合っている。それ自体が悪いということではありませんが、大企業にはグローバルな最新情報が提供されやすい一方で、中小企業には、そうした情報は届きにくい。格差を解消するはずのICT分野にさえ格差が生じている。こうした実情を私たちは問題視しています。

 2019年4月22日にICTオフィスビル「スマートシティAiCT」がオープンし、名だたる企業が入居してくれば、彼らが市内のあちらこちらの交流事業に参加する。そうなれば会津地域の市民や事業者は、地元にいながらにして世界のトップ企業と接点を持ち、世界の先端事例に触れられます。これまで、そうしたことができたのは、日本では東京と大阪などに偏っていました。

 世界的な企業との接点は、会津若松が手に入れる大きな財産だと私たちは考えています。その価値に市内各産業の関係者が気づき始めています。コネクテッドになり、デジタル化に縁遠かった地元企業がつながっていく。それは会津地域にとって大きな付加価値です。

 AiCTの誕生は、その第1ステージ。ここまでの段階でも、スマートシティを実証でき、人も増えるという成果が得られました。重要なのは、これからの第2ステージです。地場企業がどうコラボレーションし新産業を創出するか。これからワクワクするところです。

竹田 全くその通りです。私も、推進協議会とスマートシティ会津の代表者として事業を1つひとつ推進していきます。

 それと並行して、本業である病院の立場として、医療・介護福祉というヘルスケアをきちんと提供し続け、総合的に地域の方々が安心して暮らせるまちづくり、地域づくりをお手伝いしたいと考えています。