- Column
- 本当にビジネスの役に立つSAP流デザインシンキングの勘所
ビジネス現場においてデザインシンキングが向いている課題とは【第3回】
第1回と第2回では、デザインシンキングを構成する「3つのP」と、そのなかの「PROCESS」に焦点を当てて紹介しました。デザインシンキングの基本の流れは、課題を正しく理解するための切り口を見いだし、理解そのものや、解決策の筋の良さを反復的に確認するということでした。今回は、ビジネスとデザインシンキングについて論を進めたいと思います。
デザインシンキングを用いるのに、ふさわしい課題はありますか?――。こういった質問をしばしば受けます。そんな時は「『複雑な課題』の解決に向いているのですよ」と答えています。するとほとんどの質問者は煙に巻かれたような顔をされます。当たり前ですよね。しかし、これは大真面目な答なのです。では「複雑な課題」とは一体どのようなものなのでしょうか。
取り組み範囲の定義が甘い課題は理解にも一手間
複雑な課題とは、どこから解けばよいのか、その手がかりがつかみにくい課題を指します。そもそも何が課題なのかが分かりにくいタイプの課題です。話を分かりやすくするために例を使って、ご説明します。
「経費2%削減」という課題が出されたとします。何に取り組めばよいか、その解決策のいくつかが、すぐ頭に浮かぶのではないでしょうか。このように、取り組み範囲が明確に定義された課題では、論理的に考えれば解決策の選択肢が導き出され、あとは、それらの中から最も良いものを選択すればよいということになります。
「受注業務プロセスを改善しよう」という課題ではどうでしょう。受注業務に関わる「何を」改善したいのか、いくつか方向性があります。お客様との付き合い方、プロセスのスピードや正確性などなどです。取り組み範囲の定義が甘い課題は、なぜその課題を取り上げるべきかという背景を、もう少し踏み込んで理解する必要が出てきます。
「時代に合った働き方を実現するには」という課題ではどうでしょう。いくつもの要素が絡み合い、課題そのものの理解に一手間かかると感じるのではないでしょうか。この種の課題こそが、複雑な課題です。
デザインシンキングは、多様な可能性を考えていくのに向いており、取り組み範囲の定義が甘い課題や、複雑な課題を解く際に有効であると言われています。
デジャブを逆さにした「ブジャデ」を見つける力が重要に
課題を解く手がかりを得るのに重要なのは、前回紹介した「理解」「観察」「着眼点」の3つのフェーズからなる「課題の理解」の領域です。このうち観察フェーズでは、今まで知らなかったことの発見に専心し、着眼点のフェーズで、その気付きが本質的な課題として像を結ぶよう努めます。
観察の段階で気をつけたいのが、知らず知らずのうちに課題の見方を決めてしまっている固定概念です。自分がよく知っており、経験が深いと信じている領域では、特に気をつける必要があります。
「デジャブ(既視感)」という単語は、ご存知でしょう。初めて経験することや、初めて来た場所なのに、なぜかすでに知っている感じがする感覚のことです。では、デジャブを逆さにした「ブジャデ」を、ご存じでしょうか。
ブジャデは、アメリカのコメディアン、ジョージ・カーリン氏による造語です。意味は、まさにデジャブの反対で、よく知り、見慣れた物事の中に、新しい気付きや新しい視点を得ることを指します。観察フェーズでは、このブジャデを見つける力が問われるのです。
課題の本質は何か。それを発見する力を養うことが、複雑化が進み、変化のスピードが速い現代において求められていることは論を俟ちません。ビジネスの現場では、専門性や利害が異なる複数の人間が、協調しながら絶え間なく、課題の本質を探り、解決を図っていく必要があります。
第1回でお話ししたマインドセットの重要性も含め、デザインシンキングという課題発見・課題解決の型を組織内に浸透させていくことの意味は、ここにあります。