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ローソンの竹増 貞信 社長 「店頭での触れ合いや暖かさこそが強み、デジタルでバックヤードを大改革する」

志度 昌宏(DIGITAL X 編集長)
2019年1月23日

Amazon Goは無人店舗ではない

 Amazon Goでは“無人”が強調されていますが、実際に訪れてみると大勢の人が働いています。レジには人がいませんが、店内で戸惑っていると店員さんが笑顔ですぐに助けに来てくれますし、店内で調理もしています。

 むしろ「凄いな」と思ったのは小売業の基本である「Q(Quality:品質)・S(Service:サービス)・C(Cleanliness:清掃)」が徹底されていることです。商品はきれいに並んでいるし店員は笑顔を絶やさないし、店内にはごみ1つ落ちていない。ピカイチです。店内調理されている15品をすべて食べてみましたが、いずれも美味しかったですよ。

 ネットからリアルに進出したAmazonが、Q・S・Cを徹底し、かつエンターテインメント性も備える店舗を出してきた。デジタルで先行するだけでなく、「人はなぜものを買うのか」「なぜその店にいくのか」といった商売の本質をよく研究し、非常に高いレベルで実現している。このことは脅威と言えば脅威です。

 ただ「やられた」という感もありません。まだ1店舗ですし、1万店、2万店でやるとなれば話は変わってきます。

−−ローソンとしては今後、どのような店舗作りを目指すのですか。

 コンビニは今、踊り場を迎えています。日本全国に約5万6000店があり、うちローソンが約1万5000店です。生活の変化や街の暮らしの変化に合わせてサービスを充実させることで成長してきましたが、今後も毎年1~2割増という速さで店舗が増えるとは考えにくい。今後は、ここまで張り巡らされたコンビニを街のインフラとして、どう発展させていくかを考えなければなりません。

 Society 5.0が目指す2030年、2050年の姿を今は提示できませんが、5年後のコンビニはガラッと変わっているはずです。

 ローソンであれば、究極的にはレジにだけ人がいて、ほかは全部デジタルが支えているような店舗です。品出しや返品、調理や清掃といったことには人手をかけない。レジにだけ人がいて笑顔で暖かく接客するのです。都会ならセルフレジなどスピーディーに精算できるほうが良い場面もありますが、郊外には一人暮らしの高齢者も多く、ローソンに会話をしにこられる方もいます。会話があるから振り込め詐欺を店員が阻止できたりするのです。人との触れ合いや暖かさはネットビジネスでは提供できません。店頭での顧客との接点は絶対に譲れないのです。

−−実証実験などでは、セルフレジやスマホ決済などが目を引きます。

 人手不足のなかでデジタルをどう使うかを考えると、レジやキヨスク端末の「Loppi(ロッピー)」など見えるところに目が行ってしまいがちです。決済にしても効率良くできればお客さまと店舗スタッフのストレスをなくせるので有効な手段でしょう。

図:ローソンが次世代店舗を実証するために開設した「Open Innovation Center」(左)とスマホで決済ができる「スマホペイ」利用の様子

 ところがお客さまには見えないバックヤードの仕事を注視してこなかった。裏側の仕事はずっと進歩していません。トラックで届けられたダンボール箱から商品を取り出し1つひとつ手作業で並べていく。飲料なども冷蔵庫の裏側から入れれば、棚の傾斜を利用して前方に滑っていくという仕組みです。店内の床掃除も雑巾がけし、それを足で踏んで絞ったりしている。すべてアナログですが、そのため誰でも簡単にできるので頼り切ってきたのです。

 今後目指すのは、これまでとは反対のところです。人の優しさや思いやりがあるレジだけを残し、それ以外をデジタルで支える。配送トラックは自動で店舗に到着し、パレットを開けると商品はきれいに棚に流れていき、賞味期限が過ぎた商品は自動で取り除かれ、店舗はいつも清潔に保たれている。そんな店舗が実現できれば、ネットビジネスと共存するリアル店舗の価値はもっと高まるのではないでしょうか。