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ローソンの竹増 貞信 社長 「店頭での触れ合いや暖かさこそが強み、デジタルでバックヤードを大改革する」

志度 昌宏(DIGITAL X 編集長)
2019年1月23日

−−デジタル化にはデータ活用の側面もあります。コンビニは元々、データ活用の先進業種です。

 レジでのPOS(販売時点情報管理)データだけでなく「Ponta(ポンタ)」というポイントプログラムを用意し、顧客の利便性を高め、生活を効率的にサポートすることに取り組んでいます。個人情報の保護を常に意識しながら、ワンツーワンのデータ活用を目指しています。

 Pontaで得られる膨大なデータからは、どの時間帯に、どんな顧客が、何を求めるのかなど、顧客の属性や購買シーンが把握できます。そこから配送トラックに何を乗せ何を乗せなくてもよいかが把握でき、1日3便だった配送を1日2便に減らすなどが可能になります。お客さまには、必要なものを必要な場所に必要なタイミングに届けながら、運送効率を高められれば社会全体の効率化にもつながっていきます。

 カメラやセンサーを使って店内の動線なども分析しています。たとえば、商品を通路にはみ出させて陳列すると、お客さまの流れがどう変わり、売り上げがどう変わるのかが分かります。店内広告や店のレイアウトも同様です。デジタルサイネージなら、どんな映像を流すと、どんなお客さまが何秒滞在されたかなども分かります。

 さらにコンビニだけでなく、さまざまな業態があります。成城石井やユナイテッドシネマ、ローソンチケットなどです。グループ内のデータを見れば「エンタメ好きはこういうタイミングで買う」ということが分かります。2018年10月にはローソン銀行も始動します。今後はファイナンスとも結びつけられるでしょう。

知恵やノウハウは全店で共有する

 個人情報の保護は怠りませんが、データの価値をより一層高めていく必要はあります。これら色々な要素をつなぎ合わせ、ディープラーニングで分析していけば、過去のデータから、さまざまな知恵が取り出せるのではないでしょうか。そんなことにも懸命にトライしています。

 たとえば、優秀な店舗オーナーは、気温が30℃といっても日によって発注の仕方を変えています。前日の気温が25℃と35℃では、同じ30℃でも、気温が上がったのか下がったかで売れる商品が変わるからです。前日より高くなるならアイスなど冷たいものが、低くなるなら30℃でも暖かいおでんが売れることもあります。

 中には、風向きを読む方もいます。海風が吹くと冷たい空気が内陸に入ってくるので、いつもより寒く感じるし、逆に山風が吹くと体感温度が高くなる。「同じ気温でも発注の仕方は違うんですよ、竹増さん」とオーナーの方からは教えられることばかりです。

 こうした知恵やノウハウは、その人の頭の中だけに留めておくのはもったいない。初出店から44年間、人智をかけて取り組んできたことを平準化し、全店で共有したいのです。

−−デジタルがカギを握りますね。

 もはやデジタルなしでは1万5000店舗を維持できず、「“みんなと暮らすマチ”を幸せに」も実現できません。店舗スタッフにしても、アルバイト募集の広告を出せば人が集まるという時代ではなくなりました。

 一方、若い人たちのコンビニのイメージは昔とは異なります。普通のお店であり、各種サービスを利用する場所です。サービス内容を百貨店と比べたり、品揃えをスーパーと比べたり、利便性ではネットビジネスと比べたりしています。

 そうしたなかで、現状のQ・S・Cを維持するだけではローソンに未来はない。サービスレベルを上げ、さらなるニーズやウォンツに応えていくためには、デジタルはマストです。

 幸いにもローソンはチャレンジ好きです。「やってみるか」という企業文化が昔からある。「やりっぱなしだ」と指摘されることもありますが、とにかく楽しいことをやってみる。1000トライして3つ当たれば良いという感覚です。