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社会インフラのデジタル化を進め新モデルを横展開する【第20回】

藤井 篤之、廣瀬 隆治、清水 健、米重 護(アクセンチュア ビジネス コンサルティング本部)
2022年12月1日

人が担うべきはデータ活用と意思決定が伴う仕事

 前回と今回で紹介した、運用を効率化する技術の活用ポイントは、資産台帳の記録や定期オペレーションのように、手間はかかるが誰でもできる仕事をデジタルに置き換えて自動化し、データ活用と意思決定が伴う仕事を人間が行っている点にある。

 デジタル技術の効果は、(1)誰にでもできる作業をデジタル技術で自動化することと、(2)知見を持つ人間の時間を意思決定に割り振ることという不可分な関係にある2つに集約される。EAMと種々のテクノロジーが融合していけば、ロボットが社会インフラの維持管理・更新の一部を担うことも期待できる。

 こうした観点からの社会インフラ領域における先駆的な取り組み事例を2つ挙げる。

米シカゴ市の「Digital Underground」

 「Digital Underground」は米シカゴ市を主体として、地下に埋設されている社会インフラの3D(3次元)マップを作成し、事業者間で工事情報を共有するための取り組みである(図4)。工事の効率化と安全性の向上を目標に、アクセンチュアも協力している。成功すれば5年間で50億〜70億ドルのコスト削減が可能になる。莫大なIT予算を持つアメリカの大都市だからこそ可能なケースとも言えるが、都市部の取り組みとして参考になるはずだ。

図4:米シカゴ市の「Digital Underground」では地下インフラ情報を一元管理する

仏ディジョン市の水道インフラ管理

 フランスのディジョン市は人口27万人ほどの地方都市である。同市では、水道事業者である仏Suezが、社会インフラサービスの一元管理を担っている。さまざまな社会インフラを横断したデジタル化を進めることで、運用の統合と効率化を図る(図5)。

図5:仏ディジョン市における仏Suezによる社会インフラの一元管理の例

 これら2つの事例は、あくまで意欲的な自治体または事業者による先駆的な取り組みであり、まだ規模の拡大には至っていない。しかし、彼らが指向するような社会インフラのあらゆる情報が一元管理され、可視化と3Dマップ化が実現すれば、電力、通信、ガス、水道、道路などの社会インフラの保守・運用を1社が請け負えるなど、抜本的な事業の効率化も可能になっていく。

 日本でも国交省が中心に3D都市モデル「Project PLATEAU」のような取り組みが進み始めている。そうした取り組みが社会インフラの維持管理・更新にも展開されていくことを期待したい(第4回第6回を参照)。

社会インフラとしてだけでなくスマートシティとしての取り組みが必要

 日本の社会インフラの維持・運用はこれまで、雇用創出を名目に人がすべてに対応する形だった。しかし、老朽化が進む今、限りある人材が力を最大限に発揮できるビジネス環境を構築するために、デジタル技術の採用と枠組みづくりが不可欠である。新しい枠組みでは、多様な社会インフラを横断した統合管理を目指すべきである。

 スマートインフラを実現するための構想は、法規制の緩和やインフラ事業者の理解と利害調整など、課題が山積みの大きなチャレンジである。だが、社会インフラの老朽化と少子高齢化という難題を同時に抱える日本が、横展開可能な新しいモデルを構築し、その成果を示せれば、新たなモデルの知見と技術は、世界規模の利益をもたらす収益源になり得る。社会インフラの運用・管理は、洋の東西を問わず成熟期を迎えている先進諸国における共通の社会課題であるからだ。

 特に既存の社会インフラの保有・運営事業者が持つノウハウを社会インフラの維持管理・更新に横展開できれば、成熟した社会インフラ市場の新たな収益源になる可能性は高く、いち早く実現すべき領域だと言える。

 アクセンチュアでは、社会インフラ業界全体をまたぐプラットフォームの構築を支援するために、独自の業務知見とオフィス業務の自動化ツールを体系化したプラットフォーム「SynOps(シノプス)」を提供している。そのために公共施設の所有権は行政機関に残したまま運営権を民間事業者に売却するコンセッション事業などを手掛けるインフロニア・ホールディングスと提携している。SynOpsを使った日本の導入事例も増えつつある。

 デジタルトランスフォーメーション(DX)は、既存の枠組みをデジタル化することではなく、市場やビジネスのゲームとルールを変えて枠組みそのものを再構築しながら進化し続けることである。そのための取り組みが成果を生み出し、ビジネス機会をもたらす。

 現行の社会インフラ業界は、巨額な社会資本が対象にもかかわらず、非効率性が高い。その点だけを見ても、スマートインフラ構想に基づくデジタル化が効果を発揮できる領域は十分ある。スマートシティだけでなく、日本全国のまちづくりの観点からも、社会インフラは関係者全員が考慮すべき課題であり、既存のインフラの保有/運営事業者だけでなく、スマートシティのプレーヤー各人が、それぞれの役割を果たしていく必要がある。

藤井 篤之(ふじい・しげゆき)

アクセンチュア ビジネス コンサルティング本部 ストラテジーグループ マネジング・ディレクター。名古屋大学大学院多元数理科学研究科博士後期課程単位満了退学後、2007年アクセンチュア入社。スマートシティ、農林水産業、ヘルスケアの領域を専門とし、官庁・自治体など公共セクターから民間企業の戦略策定実績多数。共著に『デジタル×地方が牽引する 2030年日本の針路』(日経BP、2020年)がある。

廣瀬 隆治(ひろせ・りゅうじ)

アクセンチュア ビジネス コンサルティング本部 ストラテジーグループ 通信・メディア プラクティス日本統括 マネジング・ディレクター。東京大学工学部卒、同大学院新領域創成科学研究科修士課程終了後、2004年アクセンチュア入社。5Gを含め、長年に渡り通信・メディア・ハイテク業界を中心に、幅広い業界でAIやIoTの活用をはじめとしたデジタル戦略立案を支援。近年は建設・不動産・ハイテク・自動車・化学などの業界も担当。監修書に『FUTURE HOME 5Gがもたらす 超接続時代のストラテジー』(日本実業出版社、2021年)などがある。

清水 健(しみず・けん)

アクセンチュア ビジネス コンサルティング本部 ストラテジーグループ プリンシパル・ディレクター。東京大学大学院工学系研究科電子工学専攻博士課程後期修了(工学博士)。ボストンコンサルティンググループを経て2017年アクセンチュア入社。建設業のほか、造船業、航空・宇宙製造業など一品モノのものづくりを中心に戦略からオペレーション構築まで多岐にわたる支援実績を有する。

米重 護(よねしげ・まもる)

アクセンチュア ビジネス コンサルティング本部 テクノロジーストラテジー&アドバイザリーグループ テクノロジーストラテジー プラクティス マネジャー。通信事業者を経て2017年アクセンチュア入社。通信業界を中心に5Gや先端テクノロジーを活用した事業戦略策定・新規事業構想・実証実験などのテーマを支援。近年は、通信を含む社会インフラ事業のDX戦略立案や業務効率化に関するビジネスを支援している。