• Column
  • Society 5.0への道

なぜ今、Society 5.0を目指すのか、社会とテクノロジーの双方が求める“未来”

志度 昌宏(DIGITAL X 編集長)
2019年1月22日

 事実、日本の総人口は2010年の1億2800万人強をピークに減少傾向に転じています。国立社会保障・人口問題研究所の推計によれば、Society 5.0が目標にしている2050年には、1億人を割り込みます(図2の棒グラフ)。2050年までに現在の東京が2つ消滅するイメージです。

図2:少子高齢化が進む日本。2060年に日本の総人口は8600万人台に、65歳以上の高齢者が占める割合は40%に迫る

 一方で、65歳以上の人が人口に占める割合である高齢化率は上昇するばかりです。2010年に23.0%だったものが、2020年には29.1%、2030年には31.6%、さらに2050年には38.8%になります(図2の折れ線グラフ)。総人口が減る中での高齢化率の上昇ですから、限られた就労者が、より多くの高齢者を支える構図です。

 こうした人口構成の変化は、先に挙げた労働現場の環境悪化や、ストレス問題、あるいは年金問題や医療費高騰など、様々な社会問題として顕在化してきています。日本が“課題先進国”と呼ばれるのも、他国に先駆けて人口減少が進行しているからです。

橋やトンネルなど社会インフラも”高齢化”している

 さらに、高齢化が進んでいるのは、私たちだけではありません。橋やトンネル、上下水道といった社会インフラも高齢化、つまり老朽化が進んでいます(図3)。国土交通省が把握できている社会インフラだけでも、その建設から50年以上が経過している施設の割合は、たとえば道幅が2メートル以上の橋は、2022年に40%が、2032年には65%に上ります。トンネルも2022年に31%、2032年には47%が建設から50年以上経ってしまいます。

図3:老朽化が進む社会インフラ。建設後50年以上経過する社会インフラが増えていく

 私たちの暮らしや社会は、安定した社会インフラの上に成り立っています。その社会インフラが老朽化で十分に機能しなくなれば、日本が世界に誇ってきた“安心・安全”な暮らしも、“おもてなし”の社会も継続するのは難しいでしょう。

 一方で、AIやロボットの発展に対して「なくなる仕事ランキング」といった記事が掲載されるなど、人間の仕事を奪う存在だとするケースが少なくありません。ですが、上記のような数々の課題を考えれば、むしろAIやロボットなしに、これからの日本は立ちゆかないと考えられます。科学技術が社会課題を取り上げる理由は、ここにあるのです。

それでも世界は膨張する一方、目前の課題解決だけでは終われない

 ただし、産業界としては“課題先進国・日本”の課題を確実に解消していけば良いというわけにもいきません。人口問題にしても世界に目を転じれば、状況は一変します。世界の総人口は2015年に73億5000万人ですが、2050年には97億人超、2100年には112億人超にまで増えると、国際連合は推計しています(図4)。

図4:世界の総人口は、日本とは逆に、まだまだ増加する

 これだけの人口を生みだすのは、アジアやアフリカの発展途上地域です。アジアは2050年からは、日本の後を追う形で減少に転じますが、アフリカは成長する一方です。欧米の先進国にしても、横ばいか微減にとどまっており日本とは状況が異なります。