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  • Society 5.0への道

なぜ今、Society 5.0を目指すのか、社会とテクノロジーの双方が求める“未来”

志度 昌宏(DIGITAL X 編集長)
2019年1月22日

 人口の増加は、それだけの人々が暮らせる“都市”を必要とします。そこでは、エネルギー不足や食糧不足、あるいは公害や、都市周辺に並行して生まれるスラム化といった数々の問題が発生してきます。これらの課題を解決しながら世界各国が成長を続けるために国連は、「2030アジェンダ」を採択し、その達成目標として「SDGs(持続的な開発目標)」が掲げられました。

 すなわち世界が抱える課題は、人口増に起因する課題であり、日本が直面する少子高齢化に起因する課題とは方向が“真逆”です。日本が経済発展を続けるためには、自国の社会を維持しながらも、世界の課題を解決する“ソリューション”を提供できなければならないのです。

 もちろん、都市化やエネルギー不足、公害といった課題は日本もかつて、高度成長期に直面し解決を図ってきました。であれば「それらの課題に対しては日本が過去に経験したソリューションが適用できる」と考えられます。

 ただ残念ながら、日本の解決策は第3次産業革命期のテクノロジーを使っており、これからの世界が前提にする第4次産業革命期のテクノロジーを活用したものではありません。テクノロジーが変われば、その活用策は大きく変わります。

 反論があるかもしれませんが、少なくともコンピュータのビジネス活用においては、日本が世界に比べ相対的に不得手であることは残念ながら現状が証明しています。加えて、2050年には97億人超という“規模の大きさ”は、誰もが経験したことがない世界であり、過去の経験だけでは対応しきれない可能性もあります。

 日本が置かれている環境は、縮小していく社会の課題解決を図りながら、膨張する世界の社会課題に対するビジネスを同時に展開しなければならないということです。相反する課題に対峙していくためには、経営スタイルや組織のあり方も見直さなければなりません。

 こうした観点からも、科学技術の力、なかでもIoTやAIが前提とする「データ」の力を借りなければならないのです。

第4次産業革命の発端はインターネット

 ところで冒頭で、IoTやAIの活用が「第4次産業革命」であり、それによって導かれる社会がSociety 5.0だと説明しました。では、IoTやAIもコンピュータの仕組みや使い方の一種でありながら、第4次産業革命は同じコンピュータによる第3次産業革命と何が違うのでしょうか。ここにテクノロジーの側面からもSociety 5.0が今、求められている理由があるのです。

 第4次産業革命の発端は、1980年代初めに登場したインターネットに求められます。それまで、コンピュータやネットワークが企業や組織に閉じた形で“所有”されていたものが、誰もがオープンに“利用”できる対象へと変化し始めたのです。

 インターネットというオープンなネットワークの上に、Webシステムが誕生し、それがネット上で商取引を行うEC(電子商取引)システムへと発展しました。これらが今や、各種の情報共有の仕組みや米Googleの検索サービス、あるいは米Amazon.comのネットビジネスなどへとつながり、私たちの暮らしや社会に溶け込んできたわけです。

 携帯電話やスマートフォンの普及は、これらの動きを加速し、さらにブログやSNS(Social Networking Service、ソーシャルメディア)の登場で、情報の発信者と受信者、商品の販売者と購入者などの境界が崩れていきます。生産者と消費者の区別がなくなるという意味で「プロシューマー」という言葉も登場しています。

 こうした発展のうえに誕生したのが、多様な大量データを収集し分析すれば新たな発見が得られるとする「ビッグデータ」の考え方です。ビッグデータを生成する仕組みとして、各種の機械や端末がつながるIoTが注目され、ビッグデータが得られたことで機械学習(Machine Leaning)や深層学習(Deep Learnig)に基づくAIが一気に進展してきました。そして、これらビッグデータとIoT、AIの連携を可能にしたのがクラウド(Cloud)というコンピューティング環境です。

 これらビッグデータ、IoT、AI、クラウドは相互に絡み合って存在しています。IoTがなければ有効なビッグデータが集まりませんし、ビッグデータがなければAIは賢くなりません。逆にAIがなければIoTのもう一つの機能である最適解を還元できないし、クラウドがなければビッグデータの保管や一連の機能の連携にも支障を来たすことでしょう。