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なぜ今、Society 5.0を目指すのか、社会とテクノロジーの双方が求める“未来”

志度 昌宏(DIGITAL X 編集長)
2019年1月22日

日本の再興戦略として「Society 5.0」(超スマート社会)の実現が掲げられ、多くの企業が取り組み始めています。Society 5.0は、2050年ごろの社会の“あるべき姿”とされており、2030年をメドに具体化するのが1つの目標です。しかし今なぜ、Society 5.0が日本の目標になっているのでしょうか。その背景には、社会が抱える課題と、テクノロジーの進化の両面からの要求があります。

(本稿は、『Society 5.0テクノロジーが拓く私たちの未来』(JEITA:電子情報技術産業協会、2018年10月)からJEITAの許可を得て掲載しています)

 「Society 5.0」(超スマート社会)は、2016年1月に閣議決定された「第5期科学技術基本計画」においては、次のように定義されています。

「必要なもの・サービスを、必要な人に、必要な時に、必要なだけ提供し、社会のさまざまなニーズにきめ細かに対応でき、あらゆる人が質の高いサービスを受けられ、年齢、性別、地域、言語といったさまざまな違いを乗り越え、活き活きと快適に暮らすことのできる社会」

 「サービス」という言葉が意味するところも幅が広いだけに、具体的なイメージが得にくいかもしれません。しかし、Society 5.0が2030年や2050年といった10年も30年も後の社会の“あるべき姿”だったとしても、「必要なモノを、必要な時に、必要な人に届ける」ことは、私たちの誰もが生きていく上では現時点でも“当たり前”の要求だとも言えます。

 科学技術基本計画は、政府が5年おきに策定する科学技術の振興計画です。第5期の研究開発への投資額は5年間で26兆円を見込んでいます。科学技術の振興策ですから、そこでのSociety 5.0は、昨今話題のIoT(モノのインターネット)やAI(人工知能)といったITやソフトウェアに関する技術開発を進め、それをテコにして社会が求める新しいサービスを生みだすことが目的です。

 「5.0」というバージョン番号も、イメージがつかみにくいかもしれません。これは、狩猟社会を「バージョン1.0」だとし、農耕社会(同2.0)、工業社会(同3.0)、そして情報社会(同4.0)に続く、次の社会を意味しています。コンピュータが普及した現在のネットワーク社会を“超える”という技術的な見方が強い考え方かもしれません。

 コンピュータによる産業革命は、蒸気機関・機械化、電力・電気に続く「第3次産業革命」と呼ばれることから、IoTやAIを活用した産業改革は「第4次産業革命」とされます。この第4次産業革命によって導かれる社会がSociety 5.0だとも言えます(図1)。

図1:テクノロジーの進化が「Society 5.0」へ向かわせる

少子高齢化が進む日本は世界における課題先進国

 このような説明だとSociety 5.0は、単にIoTやAIを活用するため、あるいは、それらを開発・提供しているIT産業を活性化するための目標だと感じる方もいることでしょう。しかし、もしそうだとすれば、もっと具体的な課題を掲げたほうが技術開発も産業の活性化も、よりスムーズに進展するはずです。なのに、なぜあえてSociety 5.0なのでしょうか。

 理由の1つは、日本が抱える大きな課題にあります。少子高齢化です。近年は毎日のニュースなどでも、多くの社会問題を引き起こしている原因として指摘されており、誰もが知っている課題です。

 従来は、あまり実感を持って捉えられなかったかもしれませんし、特定の地域では人口が増えている場所もあります。それも今は、宅配サービスにおける値上げや再配達制度の見直し、パートやアルバイトの不足による時給の高騰、空き家や孤独死など、数々の具体的な事象が増えており「決して他人事ではない」と実感できる機会が増えているはずです。