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フィデリティ証券、コールセンター業務の自動化に向けAmazon Connectを採用

水野 智之(X-Techライター)
2019年7月3日

個人投資家へ投資信託を販売するフィデリティ証券は2019年3月、コンタクトセンターにおける株価の基準価額や保有資産の照会に自動応答サービスを開始した。AWS(Amazon Web Services)が提供するコンタクトセンターサービス「Amazon Connect」を利用した。同社の執行役員 個人金融サービス本部長 久保田 誉 氏らが千葉県・幕張で2019年6月に開催されたAWSの国内最大イベント「AWS Summit Tokyo」に登壇し、コールセンター戦略やサービス導入の経緯を語った。

 「『フィデリティ』という社名は、中性・忠実といった意味から生まれている。そうした立場で、600本以上の投資信託を目利きし顧客にサービスを提供している。顧客に寄り添うために、さまざまなオンラインサービスと並行し、コールセンターも重視している」--。フィデリティ証券の執行役員 個人金融サービス本部長である久保田 誉 氏は、同社におけるコールセンターの位置付けをこう語る(写真1)。

写真1:フィデリティ証券 執行役員 個人金融サービス本部長の久保田 誉 氏

 その理由を久保田氏は、「ネットで検索すれば完結すると考えられるかもしれないが、60~70歳代の顧客が扱う金額は大きく、ビジネス上も重要なだけに、ネットやスマートフォンだけでなく、電話は引き続き重要なチャネルになるからだ」と説明する。

 ただこれまでは「“最良の顧客体験”を提供するために、ほとんどを人手で対応してきた」(久保田氏)。当然「コストの増加や、オペレーターなどのリソースに制限が生まれる」(同)。そこで今回、株価の基準価額や保有資産の照会に対し自動応対の仕組みを導入した(図1)。

図1:フィデリティ証券のコールセンターにおける問題点と解決策

 今後は、「フィデリティ証券にとって収益の機会が低い部分から自動応答できる範囲を増やしていく」(久保田氏)。出金、売却やWebの操作案内などだ。これにより「顧客が必要とする重要な問合せにオペレーターを集中させ、一層高い顧客体験を提供できるようにする」と久保田氏は力を込める。

API連携により早期導入が可能に

 コールセンターで株価の基準価額や保有資産について自動応対するためには、AWSのAmazon Connectから、それらのデータにアクセスしなければならない。フィデリティ証券は、その部分をどう実現しているのか。

 その仕組みについて、フィデリティ証券のテクノロジーパートナーである大和総研ビジネス・イノベーションのフロンティアテクノロジー本部 デジタルビジネス企画部次長である山野 葉子 氏は「API(アプリケーション・プログラミング・インタフェース)連携で実現している」と説明する。

 フィデリティ証券のネット証券システムは、大和総研ビジネス・イノベーションが提供するもの。同システムが持つAPI連携機能を使ってAmazon Connectと接続した(図2)。

図2:Amazon Connectとネット証券システムはAPI(アプリケーション・プログラミング・インタフェース)を使って連携している

 具体的には、たとえば保有資産照会では、AWSのイベントドリブンなアプリケーションの開発・実行機能「Lambda」を使っている。「LambdaのAPIリクエストにより、顧客に返すアナウンス用の一時ファイルを作成している。その際、AWSのストレージ機能であるS3を併用し、そこに一時ファイルを置いているのがポイントだ。これにより、Lambdaのみでは複雑になる部分をシンプルに実現している」(山野氏)という。

 当初予定していなかったメール配信機能もAPI連携により対応した。「投資信託を10も20も保有している顧客がいる。打ち合せの過程で『メール配信もあったほうが良い』となり、すぐに対応した」(山野氏)。「APIを利用することで自答応対の仕組みは3カ月で実現できた。金融サービスとしては、かなりの短期間だと考えている」と山野氏は強調する。

対話の中にこそビジネス機会がある

 ところでフィデリティ証券が今回採用したAmazon Connectとは、どのようなサービスなのか。AWSジャパン技術統括本部 ソリューションアーキテクトの木村 雅史 氏は「Amazon Connectは米Amazon.comが10年以上運用し改善してきた仕組みをクラウドサービスにしたもの。コンタクトセンターとして必要な機能を従量課金で利用できる」と説明する。

 自動応答のためのIVR(Interactive Voice Response)や着信を振り分けるACD(Automatic Call Distributor)などの基本機能のほか、電話回線や電話番号も提供される。「2018年12月末に東京リージョンからのサービス提供が始まったことで『0120』『03』といった電話番号も提供可能になった」(木村氏)という。

 当然、AWSの種々のサービスとの連携が容易だ。木村氏によれば「着信をきっかけにLambdaを用いてデータを検索するようにすれば、顧客の電話番号から、顧客情報を表示できる。CRM(Customer Relationship Management:顧客関係管理)システムを利用していれば、そのCRMとも連携できる」

 米国でのサービス開始後は、クレジットカード事業などを手がけるCapital Oneや会計ソフトウェア大手のIntuitなどが導入。日本では東京海上日動システムズが導入している。「システム運用における異常検知時の緊急メッセージに、Amazon Connectを使うことで、夜間休日も含めた電話連絡対応の仕組みを構築した」(木村氏)という。

 フィデリティ証券の久保田氏は、今回のAmazon Connect導入について「早い・安い・うまいと、まるで牛丼のようだった」と語る。今後については「当社の業態では、対話の中にこそビジネス機会がある。これからも対話を重視し、顧客の状況を分析したサービスを提供していく」(同)考えだ。

デジタル変革(DX)への取り組み内容
企業/組織名フィデリティ証券
業種金融
地域東京都港区
課題顧客との対話において電話が有効な手段だが、コールセンターの人手に頼るためコスト増やリソース面で制限を受けるようになった
解決の仕組み収益の機会が低い部分からコールセンターに自動応答の機能を持たせる
推進母体/体制フィデリティ証券、大和総研ビジネス・イノベーション、AWSジャパン
活用しているデータ証券システムが管理する株価の基準価額や保有資産のデータ
採用している製品/サービス/技術コンタクトセンターのクラウドサービス「Amazon Connect」(AWS製)
稼働時期2019年3月