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日立物流、顧客のサプライチェーンの最適化に向け「デジタル事業基盤」を構築

水野 智之(X-Techライター)
2019年10月24日

EC(電子商取引)ビジネスが伸びる中、労働人口の減少などにより大きな変革を求められているのが物流業界だ。そうした中、日立物流は顧客のサプライチェーンの最適化を図るためにデータを軸にした「デジタル事業基盤」の構築に取り組んでいる。日立物流 IT戦略本部 担当本部長 兼 デジタルビジネス推進部長の佐野 直人 氏が東京・品川で2019年9月に開かれた「Informatica World Tour 2019」(主催:インフォマティカ・ジャパン)に登壇し、デジタル事業基盤について語った。

 「日本では今、消費、市場、労働力が大きく変化している。ドライバーや作業員の不足、それに伴う料金の高騰に加え、IoT(Internet of Things:モノのインターネット)やAI(人工知能)、Mobilityといった技術の急速な進化・普及により、物流業界は労働集約型から装置産業へと変わってきている」−−。日立物流の佐野 直人 IT戦略本部 担当本部長 兼 デジタルビジネス推進部長は、現状をこう分析する(写真1)。

写真1:日立物流のIT戦略本部 担当本部長 兼 デジタルビジネス推進部長である佐野 直人 氏

 一方で従来の業務システムは「荷主ごとに最適された倉庫管理システムがあり、その倉庫ごとに仕様が異なる装置と制御システムを利用するという個別最適になってしまっていた」(佐野氏)。IoTやAI、ロボティクスの普及により、倉庫内の運搬や保管、ピッキングや梱包などの装置化は進展する一方だ。

 それだけに「サプライチェーンと、その周辺を含めた変化へ柔軟に対応できるかどうかが企業競争力の維持・強化における重要テーマになっている。そのためには、ビッグデータのリアルタイムな可視化や高度な分析が必要であり、システムエンジニアやデータ分析者、AI技術者などデジタルワーク要員のニーズがますます増加している」と佐野氏は強調する。

スクラッチ開発での反省からデータ事業基盤はパッケージで開発

 顧客のサプライチェーンに対し新しい価値を提供するために日立物流が取り組んだのが、さまざまなシステムを接続して収集したデータを解析し可視化すること。そのために「デジタル事業基盤」の構築を決定。2019年4月に米インフォマティカ製品を使ったプロジェクトを立ち上げた。

 デジタル事業基盤の目的は、「データの可視化によって洞察を得て、デジタルトランスフォーメーション(DX)によるビジネスを加速すること」(佐野氏)にある。具体的には、「安全や生産性といった観点から物流の高度化を図り、顧客のサプライチェーンマネジメントにおいて全体最適化を支援できるように、パートナー企業を含めた新しいビジネスを創出する」(同)のが目標だ(写真2)。

写真2:日立物流の「デジタル事業基盤」の位置付けと、活用目標

 このデジタル事業基盤の構築にたどり着く前に同社は、2つの挑戦に取り組んでいた。1つは、ある倉庫を対象にしたデータ基盤のスクラッチ開発だ。ただ「データをただ集めてもその利活用はできなかった」(佐野氏)。もう1つの挑戦は、別の倉庫におけるKPI(重要業績評価指標)管理や報告書の自動作成の試行である。これもスクラッチで開発しようとしたが「技術的課題が大きかった」(同)という。

 これらの反省から日立物流は、「単なるIT基盤の開発・導入では意味がなく、データをどのようにマネジメントすべきかから考え直すと同時に、データマネジメントやデータをモデリングする専門スキルの習得が不可欠」(佐野氏)と判断し、デジタル事業基盤の構築へと舵を切ったのだ。

 パッケージ製品を採用したのは「データハンドリングを統合し、誰もが生産性を高められるうえに、短期間にデータの収集・蓄積と利活用が可能になると判断した」(佐野氏)ためである。

 その背景には、「データの収集や蓄積にコストがかかる」(佐野氏)ことがある。そこを把握して「データROI(投資対効果)を意識し、そのデータ活用が、なぜリターンを生めるのかをシンプルに説明できるロジックの構築が不可欠になる」と佐野氏は指摘する。